宇宙人(地球外生命体)って本当にいるの?最新学説3行まとめ!

宇宙人や地球外生命体を真面目に研究するアストロバイオロジーの講演メモです。火星に水の証拠が見つかったこと、最有力とされていた土星エンケラドゥスが最新の研究で少し不利になってきたことなど盛りだくさんでした。

宇宙人(地球外生命体)って本当にいるの?最新学説3行まとめ!

2015年9月19日に開催された日本地球化学会による講演『宇宙・海洋・生命 ~ 地球科学が読み解く生命誕生の謎 ~』を聴講してきました。

「宇宙に生命はいるのか」という、いわゆるアストロバイオロジー(宇宙生物学)を化学の視点から俯瞰するものです。

今まで聞いたアストロバイオロジー講演の中では一番エキサイティングで解りやすかったのでメモ。

宇宙・海洋・生命 ~ 地球科学が読み解く生命誕生の謎 ~ 講演内容

登壇者は、いずれも各分野の牽引役となる実力者です。

橘省吾 先生(北海道大学)
「宇宙に生命のもとを探す」太陽系大航海時代に「はやぶさ2」が見る夢
高井研 先生(海洋研究開発機構)
「こんな高温でも微生物があふれている」生命の起源を探る海底熱水系調査
山岸明彦 先生(東京薬科大学)
「火星に生命はいるか」世界が競う火星探査

3人の先生方がそれぞれの研究内容を紹介しながら、全体として今後の生命探査のあり方が透けて見えると言う構成でした。

…が、普通の講演5本分くらいあって面白いところだけ抜き出しても誰も読まない分量になりそうだったので各章3行で暴力的にまとめます!(;・`д・´)

そもそも生命発生の条件とは

生命の定義として良く言われるのは以下の三つ。

  • 内外を分かつ膜を持つこと
  • 代謝すること
  • 増殖すること

中でも初期の発生条件に注目すれば、『有機物』と『膜』をもって生命の起源と考えて良いでしょう。(山岸先生)

ヒ素型生命体

たとえば地球型生命体とは違う構造の生き物を考えたとして、一体それは機能するのか。

  • ヒ素型生命体
  • ケイ素型生命体
  • メタンやエタンを溶媒とする生命体

ヒ素型は2010年ごろにNASAの研究グループがScience誌に報告したことから大きなニュースになりました。結局は「なかったこと」で収束したいわく付きの代物です。

仮に存在しえたとしても、リンの代わりにヒ素を使うのは賢い選択ではない。宇宙の元素存在比を考えると、使うメリットがないから。ケイ素も同様。(山岸先生)

メタンやエタンについては、生体で機能を持つ元素(金属など)が溶けるかどうかが判ってないので評価不能。(高井先生)

有機物と水の関係

生命誕生に必須とされる水の働きについて考えます。

  • ものを良く溶かすこと
  • 豊富にあること
  • それを介して機能が持てること

条件を満たせば水以外でも良いんでしょうが、条件を満たす一番簡単な物質は宇宙全体に目を向けても水でしょう。

宇宙はほとんど水素・酸素・炭素・窒素で成り立ってるからです。(橘先生)

膜に親水基と疎水基がついていれば複雑な構造作ることも出来ますし。(山岸先生)

地球は本当に水の星か

たとえば地表の7割は海だと言われてますが、実際の水分量をかき集めると想像以上に少ないものです。各天体の水分量を比較したのが下の図。

各天体の水存在比 地球とエウロパとタイタン
天体の保水量を可視化した図Liquid Water in the Solar System – PHL, NASA【CC BY-NC-SA】

半径で言えばエウロパ(木星の月)やタイタン(土星の月)の方がずっと小さいのに、地球よりも豊富に水を持ってます。実を言うと地球は薄い水の膜が張ってるだけの星なのかも知れません。(この章すべて高井先生)

【 memo 】

前に計算した海水量の概算。陸と海の体積比は3桁オーダーが違います。
10/23はモルの日!海にコップ一杯の粗相をしたらどうなる?

有機物はどこで出来てる?

生命が発生するためには、何と言っても有機物が必要となるでしょう。モデルケースとして地球を置くと、考えられる有機物の成因は地球由来か宇宙由来かの2パターンです。

  • 地球型有機物
  • 宇宙型有機物

有機物が作られるためには大きなエネルギーが必要。そこだけ考えれば宇宙が有利で、いきなり大きな分子がばーんと出来ることもある。ただし汎用的な数理モデルによって生成量をシミュレートすると、タンパク質は地球のアンモニアから生成されると考えるのが自然です。

じゃぁ、それを受け止めるだけのエネルギーが地球にあるのかといえば、太陽エネルギーと地熱だけでも相当なポテンシャルが確保されてる。隕石(宇宙塵)も100t/dayあってバカにできない。つまり地球由来でOK。水も十分に存在します。(この章すべて高井先生)

生命がいそうな星へ行こう

宇宙探査に話を広げたとき、有機物の起源を探るためにもまず星の成因を知る必要があるでしょう。

「はやぶさ2」のターゲット星はどのようにして決まったか

登壇者である橘先生は「はやぶさ2」サンプル回収・分析チームのリーダーでもあります。原子天体の誕生と形成過程については、料理を使った例え話が秀逸でした。

  • 原始的な天体はフレッシュサラダのようなもの
  • 天体も成長に従って次第に「煮えて」原形を失う
  • 星の成因を知るには素材が見える天体じゃないとダメ

その要求から設定された「はやぶさ2」のターゲット星が「1999JU3」であり、「イトカワ」はいわば「温野菜サラダ」の状態だった。(この章すべて橘先生)

小惑星イトカワの粒子
小惑星イトカワから持ち帰った温野菜サラダ(橄欖岩)

火星に生命はいるのか

かつて宇宙生命体の存在が有力視されていた火星ですが、今となっては絵に描いたような宇宙人はいないだろうと誰もが言います。しかし各方面の研究が進むにつれて、前向きな要素がじわじわ高くなってきました。

  • 堆積岩など大量に水があった痕跡あり
  • 今でも少ないながら安定して水が存在する証拠がある
  • 気圧の低さと紫外線がネックだけど地下数cmで許容レベル

(この章すべて山岸先生)

【 関連記事 】

アストロバイオロジー「宇宙にいのちを探す」行ってきたー!!

山岸先生の過去講演Ustreamアーカイブ。2年経って更新された情報もあるけど流れは追えます。私もこの時点では懐疑的でしたが、もしかしたら火星もしかするする。

火星の塩水(NASAの緊急発表を受けて)

【 本章追記:2015-09-29 】初稿で前章リスト2行目は「安定して水がある」だったのですが、今朝のNASA発表を受けて訂正しました。

Spectral evidence for hydrated salts in recurring slope lineae on Mars : Nature Geoscience : Nature Publishing Group

We find evidence for hydrated salts at all four locations in the seasons when recurring slope lineae are most extensive, which suggests that the source of hydration is recurring slope lineae activity.

発表自体は講演で聞いてた話と同じ内容です。

「水の証拠がある」
「(気圧が低くても蒸発しないのは)水和塩として液状に留めてるため」

「ある」と断定的に書いてしまったのは私のミスです。山岸先生はNASA同様の表現をされてたと記憶してます。

【 memo 】

ちなみに初稿で水和塩の話をまるっと省いた理由は、私の理解力だと怪しい情報を盛り込みそうだったため。

あー、その手があったかー!と思う一方「えっ、それタンパク質変性しないの?」とか「その水を別の分子が奪えるの?」とも思って、でも有機が全然解らないのでお手上げでした。どこかに解説あったら教えて下さい。

あと、朝にこのニュースを知ってから、昼頃まで「何でこのタイミングでこの発表なんだろう?」って思ってたんですけど、Googleが早速Doodleを突っ込んできたので目が点になりましたよね。

「ヤダ…来年2月に公開するSF映画『オデッセイ』のプロモじゃないでしょうね…。:;(∩´﹏`∩);:」って思ったのはここだけの秘密です!><

エンケラドゥスは海の星だった

いま太陽系の中で最も生命がいるんじゃないかと噂されるのが土星の衛星エンケラドゥスです。その内部環境が、つい最近明らかになりました。氷の下には海が全面に広がっているようなのです。

土星の衛星エンケラドゥスの内部予想図
土星の衛星エンケラドゥスの内部予想図【via NASA PD】

この豊富な水量は生命発生を語るうえで圧倒的に有利…だったんですけど、あんまり水が多いと地殻の橄欖岩が水和してpH跳ね上がることが解ってきました。

いま最もアルカリ環境に耐える生物は高井先生らが見つけたpH12までOKってやつなんですけど、最悪のシナリオだとpH13(!)まで行くかも知れない。pHの1違いは文字通り「桁違い」の環境なので、12でOKなら13もなんとか…みたいな期待は禁物です。

むしろ地球の水分量は今の1割だって構わないのだとか。

ただ、エンケラドゥスの表面からは珪質の蒸気が吹いてることも解っています。それは腐った地殻を中和するほうに働くんじゃないかな…と思ったのですが「行ってみないと中がどうなってるかは判らない」ということでした。(この章すべて高井先生)

【 関連記事 】

酸性雨が降ると深海にアルカリ熱水が噴出して縞状鉄鋼床がドン!

海底環境における熱水の働きについて高井先生との往復書簡。主題は酸化鉄ですが初期生命の話もちらほら。

宇宙生命体についての勝手まとめ

三人の先生方は一見バラバラなテーマで喋っているようで、いずれも「生命を構成する材料は宇宙の元素存在比に従うだろう」という点を強調されてたのが非常に印象的でした。

  • 有機物の成因が明らかになってきた
  • 水の関与が明らかになってきた
  • 各天体の環境が明らかになりつつある

興味があるから闇雲に行ってみると言うより、きちんと仮説を立てて状況証拠を埋めていく段階になってきたと感じています。

突飛な構造の生命は存在しないかも知れない。ただ、地球と同じような生命が見つかったとしても系統樹を埋めることで大きな発見があるでしょう。地球の生物だってpH12や100度以上の環境に耐えるなど、変な生き物は沢山いるわけですし。

今回の講演はもう書ききれないくらい濃密で、三者三様に素晴らしい内容でした。ライブ的に神回。聞けてラッキー!

今後の研究が進むことを期待してます!(´ω`*)

参考図書:生命の星の条件を探る

「天体が保有する水は少ない方が生命に有利」を一般向けに解説したものとしては、今これがベストかも。

目次だけでもwktkなのでご紹介しておきます。

【楽天】生命の星の条件を探る [ 阿部豊 ] / 【Amazon】
序章 地球以外のどこかに
私たち以外にもこうして星空を見上げている存在はあるのか、満天の星空の下で、そう考えるところからこの本は始まる。そのことを解明するために、様々な分野を横断した研究が始まっている
第1章 水
なぜ、生命には水が必要だと言えるのだろうか? 土星の衛星タイタンの湖のようにメタンでは駄目なのだろうか? その秘密のひとつには、水は宇宙のなかで、あまりにありふれたものということがある
第2章 地面が動くこと
我々の足元では、大陸を乗せた巨大な石の板「プレート」が動いている。こうしたプレートが動く惑星は太陽系では地球だけだ。なぜ、このことが生命にとって重要なのだろうか? 鍵は二酸化炭素にある
第3章 大陸
陸地がない海だけの惑星を考えてみよう。そこで生命は繁栄するか? 陸地には生命にとって重要ないくつかの働きがある。それは二酸化炭素を貯え、リンを供給することだ。そのメカニズムとは?
第4章 酸素
酸素がないままでも微生物は存在できる。しかし現在のような複雑な進化をとげた生物、知的生命は存在できないだろう。エネルギーを効率よく生み出す酸素の機能とは? 生物の大型化と酸素の関係とは?
第5章 海惑星と陸惑星
地球の海の水の量を10分の1にしたら生命は存在できるだろうか。直感に反して、そうした「陸惑星」の方が生命が存在する期間は長い。「海惑星」の地球はあと10億年で生命の住めない環境になる
第6章 惑星の巨大衝突
太陽系の惑星は形成の最終段階に、惑星同士の巨大衝突「ジャイアントインパクト」を繰り返していた。衝突の衝撃で地表はすべて荒れ狂うマグマの海と化す。惑星の形成過程を探ってみよう
第7章 大気と水の保持
水は宇宙空間でありふれている物質であるために、惑星は形成期に水を含んで誕生する。では、火星と金星に水がなく、地球にある理由は何か? 太陽からの距離と惑星の大きさが大きく関わっている
第8章 大きさ
太陽系外に巨大な地球型惑星「スーパーアース」の発見が相次いでいる。生命の条件に惑星の大きさは関係するのだろうか。計算すると「ミニ地球」にも「巨大地球」にも思わぬ難点が生じるとわかった
第9章 軌道と自転と他惑星
もしも、太陽系に木星がなかったら、地球はどうなるだろう。地球の300倍の質量を持つ木星はその重力で、太陽系外からの彗星から地球を守る働きをしている。変化する軌道と自転軸の働きとは?
第10章 恒星
太陽の寿命はおよそ100億年。しかし恒星のなかには、わずか1000万年程度の寿命しかないものもある。恒星の大きさは恒星の明るさと寿命を決め、惑星の環境を大きく左右する
結び 「ドレイクの方程式」を超えて
1961年、地球外の生命体の存在について、確率論から迫った科学者がいた。ドレイクの方程式と呼ばれるその考察は、その後の観測技術の発達の中で、どう評価されるべきなのか。そして将来は?
補遺
磁場は生命に必要なのか

【 更新履歴等 】

2015-09-25 初稿発表
2015-09-29 『火星の塩水』章追記しました。