ろくでなし子事件はフェミ論よりデジタル訴訟で語るべきでは

ろくでなし子さんが「わいせつ電磁的記録頒布の疑い」で逮捕されたそうですが、これ暗号化して素数や円周率で切り取ったらどうなるんでしょうね?

ろくでなし子事件はフェミ論よりデジタル訴訟で語るべきでは

先だっての昼下がり、目を疑うようなニュースが飛び込んできました。ろくでなし子さん逮捕の一報です。

ろくでなし子さんとは、自身のまん中を型どりしたモールドから謎のジオラマを制作しているアーティストですね。…まん中とは何ぞや、ということになるわけですが有り体に言うと女性の局部です。

共同通信(2014/07/14)によれば

警視庁保安課は14日までに、自身の女性器の3Dデータを配布したとして、わいせつ電磁的記録頒布の疑いで、「ろくでなし子」の名前で活動する自称芸術家五十嵐恵容疑者(42)=東京都世田谷区野毛=を逮捕した。

 保安課は、3Dプリンターに入力すると石こうなどで形状を再現できるデータは、わいせつ物に当たると判断した。

…とのこと。既に十分な活動歴がある人を「自称芸術家」として扱ったことにも驚きましたが、なにより

模型そのものではなく3Dスキャンデータが対象となったこと

ですよね。

ろくでなし子の作風と事件の発端

ろくでなし子氏を初めてテレビで見たのは数年前のことでした。「型取ってデコって何それ楽しいの…?」くらいに思ってましたけど、その後も活動の幅を広げ続けていらっしゃるようで何よりです。

彼女のコンセプトは「体の一部でありながらタブーとされ、常にモザイクをかけられている偏見への問題提起」にあり、その活動は「卑猥の対極にあるもの」ということになっています。

ろくでなし子事件の概要

今回取り沙汰されたのは、CAMPFIREで出資が募られたマンボートの件ですね。型どりした局部を拡大してカヤックを作り、川にこぎ出したのだとか。

わたしの「まん中」を3Dスキャンして、世界初の夢のマンボートを作る計画に支援を! – CAMPFIRE

問題の背景には「データ作成のために出資者を募り、その報酬として局部を撮影したデータを渡した」というのが大きそうです。

たとえ彼女とそのファンに卑猥な意図がなかったとしても、モデラーに食わせてレンダリングすれば相応の画像が得られます。このケースを野放しにすると暗号化さえすればどんなデータの売買でも許されることになりますね。

そもそも「わいせつ電磁的記録頒布の疑い」とはなんぞや?

電磁的記録頒布の問題点

この問題は刑法175条の「わいせつ物頒布等の罪」にあたるようです。

わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする(第1項)。有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする(第2項)。

この「電磁的記録」というのは、一般的にはJPEG画像みたいなものを想定してるんでしょうけど、今回はCADデータと言うことで微妙なものを感じます。

音楽や映画のリッピングなんかとも通じますけど、普通の人が再生できない形式のデータをやりとりしていた場合、どこまで罪に問われるのかを立件するのは難しくなってくるのでは。

この事件に食いついていたのはフェミ系が中心でしたけど、何気に違法素数なんかとも通じる話で技術系の人も騒ぐべき案件だったのではないでしょうか。

違法素数とは

違法素数とは、あるコンピュータプログラムの発表から端を発する素数です。

1999年、ヨン・レック・ヨハンセンによって発表されたDVDのコピーガードプログラム「DeCSS」に違法性が指摘され、このプログラムの使用とソースコードの公表が禁止されるという事件がありました。裁判所によるこの判断が言論の自由に反するとして、さまざまな抗議活動が行われたというものです。

その後、支持者がDeCSSのソースコードを数値化して配布することを思いつきました。例えばそれが素数であれば、単に数学的な情報として合法的な公開が可能です。

DeCSSプログラムそれ自体は「素数」ではありませんでしたが、その後 一定のアルゴリズムを通すことで素数を作り出す計画が検討されます。

現在では、実際に素数でありながらプログラムとして実行できてしまう数列も見つかっています。

技術以外の問題点

もっともこの事件は、デジタルデータの扱いという以上の問題を孕んでいます。

特に高額出資者には「まん中3Dスキャン体験立ち会い権」なる特典が含まれていました。型取りする様子を撮影してネットにアップしてもOKだったということです。

さすがにモロ見えポジションに立てるのは技師の方だけのようでしたが、もし機材に映り込んだ局部をめざとく見つけたお客さんが望遠で激写してたらどうなってたんでしょうね。

仮に撮影したデータを運営が確認してから…という契約だったとしても、高画質の望遠で撮った画像は小さなカメラモニタの上ではほとんど判別できないでしょう。そのデータをトリミングして流出した場合、責任の所在はどこにあるのか。

暴力行為への対策は…?

また、指示を守らず強引に割り込む人がいた時の対策はちゃんと取られていたのでしょうか?

例えば高額出資者全員がグルで暴行を計画していて、知らぬはスタッフばかりなり…みたいな可能性だって一応あるわけですよね。デリケートな話題として累犯の可能性を考えたら、無規制のまま前例を作るわけには行かないという司法判断も判らないではないです。

局部スキャン会の様子

ちなみに、まんデータのスキャン会の様子はWebでも報告されています。「写真、動画撮影OK、SNSへの投稿OK、拡散希望」の件もこちらに。
http://mess-y.com/archives/3019

カヤックに仕立てる目的で「入り口が広がった状態」でスキャンデータを取るために、穴の中にゆで卵を突っ込んでみたり皮膚を引っ張り上げてみたり、試行錯誤されてされてるさまが正直めっちゃウケる。

すっぽ抜けた卵の行方が判らなかったんですけど、スタッフが美味しく頂いたんでしょうか? 容器としての原形採寸って彼女的に需要がありそうだし、手で押さえなくても抜けない小道具の開発が望まれますね…。( ◜ᴗ◝ )

おわりに

何が言いたいかというと、アーティストはコンセプトを固めた上で法律家などのブレーンを付けといた方が良いんじゃないかなぁということです。

芸術だからどうこう、女だからどうこう、みたいな押し問答じゃなくて、規制に引っかかる部分があるならそこをクリアした上で飄々としてて欲しい。それってすごくロックでしょ。

自衛ための楯と言うよりも、地雷原を走り抜けるための特殊装備として、がっつり突き進んで頂きたいものです。

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