理研をはじめとする共同研究チームが、このほど電気を食べる細菌についてプレスリリースを発表しました。
電気のみがエネルギー源となる環境で有機物を合成し、細胞が増殖したというのです。(注:ここで「ほへ?」と思った方は巻末のまとめを先にご覧ください)
へー、スゴイ、そうなんだ!
…ん、待てよ?(눈_눈)
でも、なんかこの話デジャブ。
理研発表の「電気で生きる細菌」の概要
理研プレスリリースによると、電気mgmg細菌の概要は以下の通りです。
電気で生きる微生物を初めて特定 | 理化学研究所
2010年に太陽光が届かない深海熱水環境に電気を非常によく通す岩石が豊富に存在することを見出しました。そして、電気を流す岩石が触媒となり、海底下から噴き出る熱水が岩石と接触することで電流が生じることを発見しました。これらを踏まえ、海底に生息する生物の一部は光と化学物質に代わる第3のエネルギーとして電気を利用して生きているのではないか
…という仮説を元に「鉄イオンをエネルギーとして利用する鉄酸化細菌の一種Acidithiobacillus ferrooxidans(A.ferrooxidans)」を使い、電気を食べて有機物を合成して増殖する一連のプロセスを明らかにしたようです。
光合成・化学合成に次ぐ第三の独立栄養生物とな。初期生命の進化史を埋める大発見なのでは!?(・∀・)
だけど、深海熱水環境で電気を食べる細菌と言えばアレですよ。
熱水噴出孔にいるという電気合成生物のこと?
この話で思い出されるのは、2015年5月のJAMSTEC一般公開で見たこのポスター発表です。
という研究。この時点では「状況証拠は確実に揃ってるけど今のところ細菌が見つかってない」という話でした。
理研発表を読む限り、この話と根は繋がってそうだけど、「チムニーから新種の細菌を見つけた」という話ではないよね?
理研発表の何がスゴイか聞いてみる
Twitter見てたら、タイムリーにメチャクチャ詳しそうな方があらわれましたよね。JAMSTECの高井研先生です。
化学合成独立栄養生物、光合成独立栄養微生物に続く電気合成独立栄養生物の証明を、我々も目指して努力してきましたが、共同研究者であり師匠でもある理研の中村龍平さんグループが初めて成功。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647308184823054338
微生物を有機電気回路として代謝だけを利用する研究はたくさんあった。ただ、電子そのものを直接喰らい「増殖する」という現象までが実証されたのは初めて。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647310881118773253
素人が畑違いの英文を眺めててもよく判らないし、偉い人に聞いてしまおう。でへ。
【 備考 】
LINE風にしてるけど、これ以降全部Twitterです。一部スレッドが多重化してたので読みやすさの都合で時系列とか入れ替えてます。ソース参照。
【2015-09-27 追記】URLは横510px以上の端末にてご確認頂けます。
類似研究との新規性について
少し前に話題になった別の電気食べる細菌の記事に「grown on a supply of electrons with no added food」てありますが、これは「増えた」ことにはならないんでしょうか?
https://twitter.com/02320_ochi/status/647327011300507648
実は以前、理研やJAMSTECとは別件として似たような「電気を食べる細菌」の話を読んだことがあったんです。
Meet the electric life forms that live on pure energy | New Scientist
この話と理研発表の違いがよく判らなかったのも疑問に思ったポイントでした。
この記事で使われているgrowthは厳密な増殖という意味ではなく、「生きている」ことを表していますね。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647330484796547074
登場人物は全員よく知っている人ですが、私の知る限り、彼らが「細胞分裂という意味での増殖」を厳密に論文で示したことはないです。電気で多くの微生物が代謝を行うことは「微生物燃料電池」の研究においてはもうかなり当たり前です。しかし誰も「増殖」を実証できなかった。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647331696682008576
なるほどー。
理研発表は一般公開のラボに張ってあったポスターと同じものって認識で合ってますか?
https://twitter.com/02320_ochi/status/647331574183149568
一般公開のポスターというのはこれ。「電気食べる細菌」の可能性について示した図です。
電気栄養細菌に関する研究方針の違い
ちがうよん。理研の仕事は理研の仕事。ウチの仕事はウチの仕事。そういう意味では向こうが先に実証した
https://twitter.com/1031kentakai/status/647332703457538049
あ、共同研究だとは思ってません。「別々に同じ生物を研究してたのでしょうか?」という意味でした。
https://twitter.com/02320_ochi/status/647334197766451201
彼らは既に電気を使うとわかっている分離株で試す(王道)。我々は深海熱水環境から直接そういうヤツを「リーチ一発ドラドラ12で数え役満ツモ!」(超大穴)を狙ったということですね。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647335636433661952
あー!了解です!(⊙Д⊙)
やばい、わかりやすすぎる。
電気合成細菌界の今後について
「プロの中村さんがもう(実験)始めているし、いまさら研究しても勝てないんじゃないっすかね?」まともな研究員
「おめえら電気化学かぶれの常識は通用しねえ。シロートだからよ!」ワシ
真の結果は...、まだまだ!!
https://twitter.com/1031kentakai/status/647332703457538049
今からでも深海から直接単離(?)できたらそれ自体は有意義な発見になるんですよね?
https://twitter.com/02320_ochi/status/647338475499294720
もちろん!「できる」と「今、目の前で起きているコト」は全然違います。
https://twitter.com/1031kentakai/status/647343512942325760
朗報期待してます。ありがとうございました~。(´ω`*)
…ということなんだそうです。いずれにせよSF的な妄想が非常に捗りますねっ。
皆さん合点して頂けたでしょうかっ!?
電気合成細菌のメカニズムが判ったらしいよ まとめ
【 本章追記:2015/10/02 】SNSのコメントを拾うと全然合点していただけてない感じで正直すまんかったという気持ちでいっぱいだったのですが、id:blueboyさんの
じっくり読めばわかるが、会話体なので、わかりにくい。最後に本人が箇条書きでまとめを書くべき。100字じゃ無理だから、300字ぐらいで。
blueboy のコメント / はてなブックマーク
を見て「それもそうだな」と思ったので今さらですが追記。
有機物を作る独立栄養生物と消費する従属栄養生物
世の中には養分となる有機物を作り出す生物と、反対に消費するだけの生き物がいて、自力で養分を作れる前者を独立栄養生物と言う。
考え方としては経済で言う生産者と消費者の関係に近い。(ただし生物学用語としての「生産者」「消費者」の区分で言うと、後者の「従属栄養生物」にはキノコなどの「分解者」も含む。)
独立栄養生物の種別
これまで、独立栄養生物には二つの種別が知られていた。
ご存じ植物は光エネルギーを使って二酸化炭素から水を作る。その過程で炭素を取り出し有機物を合成する。
同様に化学合成細菌もH2S や2価鉄イオンを酸化させてエネルギーを取り出す。
そんな折、複雑な処理をすっ飛ばして電気エネルギーを直接取り込む生物がいるんじゃないかという仮説が立った。それが今回の主題となる、第三の独立栄養生物 電気合成細菌だ。
より原始的なエネルギーを利用して有機物合成をしているという点で非常に興味深い。
電気合成細菌はこれまでにも何度か話題になった
実のところ、電気合成細菌はこれまでに何度か話題になっていた。本稿で取り上げているのは理研発表を含めたそのうちの3件である。
ケネス・ネルソン博士のElectric bacteria
まず最初にケネス・ネルソン博士率いる海外の研究から。
こちらも「電気以外の養分を断った状態で生存する細菌」を扱っていて、電気のみでの生存が確認されていた。類似の生態を持つ細菌も複数特定しているという。
ただし高井先生によると、ケネス・ネルソン氏のチームでは「増殖」までは至ってないとのこと。
理研発表のすごいところ
一方、今回の理研では電気のみでの増殖を確認。合成回路および細胞内部に電位差の昇圧回路( 0.3 V → 1.14 V )を持つことも判った。
まとめのまとめ
…ということで文体を戻すとですね。
写真を挙げたJAMSTECのポスター発表は、理研の発表内容と同じようでいて良く読むと絶妙に違う内容なのです。
その割にJAMと理研が連名になってるので「どういうことじゃらほい?」というのが今回の質疑の骨子でした。
大枠でJAMSTECと理研がチームを組むこともあるものの、本件については別々に研究していたので両者の研究アプローチが違ったようです。
- 理研の手法
- 鉄イオンを利用する既知の化学合成細菌 A.ferrooxidans から鉄イオンを取り上げてみたら電気だけでもいけた
- 数え役満
- 深海の電気細菌を直接同定して生態も解明したかったんじゃ、こんちきしょー!(意訳)
理研の手法は、鉄イオンからエネルギー取り出せてるなら「電気を直接扱えても不思議じゃない」って発想なんでしょうね。
今後JAMSTECの高井先生と本件の理研チームリーダーである中村先生は「自然環境での電気合成微生物生態系の証明」に取り組んでいくとのことなので、続報が楽しみですね~、という話だったのでした。
おっと、300字を大幅オーバー。門外漢なのでこの辺でご容赦下さい。間違いありましたら対応しまっす。
おまけ
しかしなんでワイの電気合成微生物ステマツイートが燃え上がっているのだ?自分たちの研究成果のプレスリリースの時に炎上したまへ。
— 高井研 (@1031kentakai) 2015, 9月 25
【 更新履歴等 】
2015/09/26 初稿発表
2015/09/27 表示ガタガタ直しついでに理研への参照をぺたりました
2015/10/02 まとめ章追記しました
コメントをどうぞ(´ω`*)