組体操による相次ぐ重大事故を背景に、全国的なプログラムの見直しが進んでいるようです。
その話を受けたFNNの検証番組にて、日本体育大学の体操部監督がインタビューに応じていました。日体大の体操部でも人間ピラミッドは4段までしか組んでいなのだとか。
監督いわく「人間ピラミッドは4段が限界、それ以上は考えてない。10段なんて論外。」
日体大体操部監督が断言した意味は大きいと思います。
番組中で監督が「実際下段にどれくらい負荷がかかってるのかは判らないけど」と仰ってたのでざっと計算してみました。
FNNふかぼり 組み体操は危険なのか? 独自に検証
下段中央に負荷が集中する
児童の体重を40Kgとして静止荷重を計算しました。数字は背中にかかる負荷です。(ただし児童の体重は全員40Kg、負荷は均等にかかっているとする。単位はKg、四捨五入。
多段の人間ピラミッドは通常三角錐となるように組みます。厚みのない人間ピラミッドを作るとしてもせいぜい4~5段で、10段はあくまで参考程度なのですが、下段中央に負荷が濃縮しているのが判ると思います。
実際に組体操を経験した人でも、危険意識がある人とない人で分かれるようです。認識の違いは配置によって経験した内容が違うためでしょう。
人間ピラミッドが崩落した場合
次に、ピラミッドが崩れた場合を考えます。
事故のニュースを見る限りでは、やはり下段中央が崩れることが多いという印象を受けました。しかし座屈条件は状況にもよるので、全体が真下に向かって潰れたという想定で計算しました。
下段中央の二人には、潰れたときの衝撃がそれぞれ300Kgf以上もかかることになります。
単位Kgfは重力に従う力の単位です。ものすごく雑に言うとKgと同じものだと思って下さい。
これは真下に向かってかかる力なので、中心に向かって崩れ落ちたときはもちろんそれ以上の負荷がかかります。同様に5段ピラミッドが崩れたときの下段中央への衝撃は506Kgfでした。
計算方法
(各段が段数人で構成される)n段の人間ピラミッドがあるとき、全体の質量(単位Kg) 40(1+n)/2 を高さ(単位m) (n-1)x0.5 から自由落下させつつ制動距離も同じだけ費やしたときの荷重を算出、更に最下段の各人が受ける静止荷重の二乗比で案分しました。
もっと妥当な計算式&事故状況のまとまった統計資料があれば教えて下さい。以下は本稿全体で有効となる計算条件です。
- 児童の体重は全員40Kg
- 1段の高さは50cmとする
- 重力加速度 g は 9.8 (m/s2)
単独落下したときの衝撃
前章は全体が崩れた場合ですが、今度は上段の人が単独で落下した場合を考えます。
体重と段数入れると衝撃力が判る計算機つけたのでいろいろ試してみて下さい。
途中で誰かにぶつかったりすると話がややこしくなるので、ちょっと不自然ですが完全な自由落下とします。空気抵抗は考えてません。制動距離は10cmとします。(n段目から落ちたときの高さは (n-1)x0.5です)
体重 | kg | |
落下距離 | 段 | 各50cm |
落下時間 | ||
落下速度 | 時速 | |
衝撃力 | 重量Kg |
計算方法
衝撃力 F = mv2/l (kg·m/s2)
ただしmは質量、vは落下速度、lは制動距離、最後で単位N(kg·m/s2)→Kgfに変換してます
詳細は前に書いた話を参照のこと。
あと細かい話なんですが、冒頭の日体大の先生によると上下にフォーメーションを取るような体操は「組み立て体操」というのが正式名称だそうです。
まとめ
この記事を書くに当たっていろいろな組(み立て)体操のニュースを見たんですけど、建築の人とか構造計算が出来る人は多分怖くて見てられないです。
見かけた資料の中には昔の軍隊が鍛錬として行っていた体操の写真もありました。人間ピラミッドは確か3段か4段でした。5段以上の人間ピラミッドは軍人でもやらないような段数だという自覚は多くの人が共有して良い知識でしょう。
成功体験の積み上げは大事だけど、成功する前提でプロジェクトを組むのは非常に危険です。最悪の事態を考えることは失敗を願うことではありません。失敗してもリカバーできる状態を確保しておいて底上げを図るのが基本だと思います。
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著者は、組体操や部活など学校現場での安全管理を訴えてる名大の先生です。 |
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