「同じ空を見上げていた君とめぐり会えた奇跡」はどれくらい奇跡か

ラブソングなんかでよくある話、試しに計算してみたらよくある話でした。

「同じ空を見上げていた君とめぐり会えた奇跡」はどれくらい奇跡か

Twitterで気まぐれに空の写真を投稿したところ、思いのほか反響があってびっくりした記録です。

春はあけぼの、つぶやきはそら

Twitterのおかげで見逃さずに済んだ虹とかISSとか数え切れないくらいあるし、Twitterでの「月が綺麗ですね」は「おめーも外に出ろ」って意味ですよ。

で、これに続々リプライいただきました。


え、待って。Twitterすごくない?

思わず「あのとき僕らは確かに同じ空を見上げてたんだ」みたいなフレーズが浮かびましたよね。

問題は「そのとき同じ空を見てた人がどれほどいたのか」です。よろしい、フェルミ推定だ!(論理の飛躍)

「同じ空の下」を定義する

ところで、科学的に言うとこの雲は巻積雲(うろこ雲)です。雲は種類ごとにだいたい高さが決まってますから、形や流れでなんとなく色々なことがわかります。

雲の発生場所と形

雲の根本のほうに厚みがあることから、より大粒の高積雲(ひつじ雲)に近いタイプかもしれませんが、いずれにせよ夕日に透けてる部分は高度5000mを超えるような上空にできた雲と考えられます。

…ということは、この雲はそれなりに広い範囲で観測できたはず。

世界でいちばん素敵な雲の教室 / 荒木健太郎

うろこ雲が見える範囲

次に、この雲の観測範囲を推定します。

この雲が高度5000mに位置したとすると、そのうちの一点から見渡せる地平は単純計算で半径250kmあまりです。(地球を 半径6,370km の真球とみなし、空気の屈折を無視した場合。もうちょっと正確に言うと252.4kmですが、そこまで細かくとる必要もないでしょう。)

雲が見える範囲を推定する

…とはいえ、あまりに遠方からの観測は雲の形がつぶれてしまうため、景色として面白く見える範囲はもっと狭いはず。仮に地上から仰角20度以上に見える範囲で絞ると、ぐっと狭くなって雲の端から数えて10kmちょいです。(高さ5kmで対角が20度の直角三角形における底辺 = 5km/tan(20deg))

空の広さ

【2018-10-11 追補あり】ただし、実際は見上げる雲自体も広範囲に広がってます。

上空5kmの天球は冒頭の地平線計算と近似できて最大250kmくらい先まで見えてるはずですが、目線に近い高さの風景は空だか地面だかよく判らないので正確性担保のため下から5度くらいを切り捨てます。すると頭上から85度分くらいの空のワタリは60km弱になるでしょう。(観測者の上空5kmにおける頭上から仰いだ空の長さ ≒ 底辺5km・天球までの仰角をθとする直角三角形の高さで近似 = 5tanθ , 全天の場合はこの2倍)

…ということで、上空5kmで地平線に近いところからまぁまぁ高いところまで伸びてる雲の一辺を40kmくらいとします(いろいろ適当だけど堪忍やで)。

全部ひっくるめると、この雲は半径30Kmくらいの人が観察できたのでしょう。肉眼の印象で雲の根元は丹沢方面に伸びてたので、神奈川県のほぼ全域で見えたと考えてよさそうです。距離的に神奈川東部の川崎市や三浦半島の一部は厳しいかもしれません。

雲が見えてた範囲

試しに地図上で大山あたりを中心に半径30Kmの円を描いてみましょう。領域には近都県の一部も含まれますが、西の山梨や静岡からだと県境の山に阻まれて見えないでしょう。北の東京側は町田などから見えた可能性もありますが、神奈川県内で観測が難しい地域の人口とだいたい相殺できそうな感じです。

そこで、同じ空の下にいた可能性のある人を神奈川県の総人口900万人とみなします。

Twitterで出会えた奇跡

Twitter公式発表による日本のアクティブユーザーは約4000万アカウント。民間調査会社の調べによるTwitter利用率も大体そんな感じです。調査会社モニタスによると神奈川県内のTwitter利用率が30%台前半なので、「同じ空の下にいたTwitterユーザ」が多分300万人くらい。
【SNSに関する都道府県別利用調査】を公開しました|株式会社モニタス

冒頭の私のツイートは現時点で約30万人が閲覧したことになってますので、単純比で2.25万人の「同じ空の下のTwitterユーザ」が私の写真を見たことになります(正確に言うと30万PVですが)。日頃から地域性の高いツイートをしてる場合はフォロワーの居住地が極端に偏ったりしますが、私は特定の地域や組織のことをあまり書かないので余計な調整をする必要もないでしょう。

奇跡が奇跡である理由

さて。同じ空の下にいた約900万人のうち、Twitterアカウントを持っている人が約300万人。そのうち私のツイートを見たのが2.25万人らしいことがわかりました。

そしてこの2.25万人のうち、たまたま私と同じ雲を撮影し、さらに同一の空だと気づいた人のうち、わざわざ報告して下さった方が少なくとも3人いました。…というより、3人「も」いたわけです。皆さんの様子を見る限り、それぞれ接点があるわけでもないのがまたすごい。

…ということは、当該地域の全Twitterユーザが私のツイートを見た場合、同様の報告が400件ほど上がってくる可能性が出てきましたよね。

これをTwitterやってない人にまで拡張した場合は同じ比率にならない気もしますが(SNSやってる人のほうが気軽に写真を撮る傾向にあるため)、それでも全体で似たような人が1000人規模でいる計算になります。

UFOも豚も飛んでない、ただの夕日の写真ですよ?それを気に留めてわざわざ写真撮った上に、映りこんでる雲の形に見覚えある人が1000人以上いるかもしれないわけです。

すごいですよね。当初3人からご報告いただいたのも驚きましたが、私はそっちの皮算用にびっくりしました。

時々空の写真を撮ってると「暇なことやってる」みたいな目で見られるんですけど、何気ない空を切り取る人って結構いるものなんですね。ちょっと嬉しかったのでご報告した次第です。(・∀・)/

みんな空の下 / 絢香

【 更新履歴 】

2018/10/06 初稿発表
2018/10/11 空の広さに関する途中式を見直しました。結論に影響はありません。