2016/06/20の今日が満月だというのは天文年鑑でチェック済みでしたが、なんでも夏至に近い満月をストロベリームーンと言うそうです。今朝になってTwitterで回ってきたのを見かけました。
ただ、緩いながら長いこと天文ファンやってますけど、ストロベリームーンなんて初めて聞きましたよね。(눈_눈)
ストロベリームーンとは
英語版Wiktionaryによると、「strawberry moon」は「6月の夏至に近い満月」とあります。
strawberry moon – Wiktionary
1. The full moon in June closest to the summer solstice.
また、今日一日でネットから流れてきた話を眺めると、次のような属性も持つようです。
満月の異名
もしネイティブアメリカンが本当に6月をストロベリームーンと呼んでるのであればそれはそれで構いません。満月を月ごとに呼び分ける文化は、世界各地どこにでもあるからです。
イギリスの農業暦
例えばロンドン天文台大学が伝える「イギリスの伝統的な満月の異名」は次のような感じです。
出現期間 | 名前 | 意味 |
---|---|---|
3~4月 | Egg moon | 卵の月 |
4~5月 | Milk moon | 乳の月 |
5~6月 | Flower moon | 花の月 |
6~7月 | Hay Moon | 干草の月 |
7~8月 | Grain Moon | 穀物の月 |
8~9月 | Fruit Moon | 果実の月 |
9~10月 | Harvest Moon | 収穫の月 |
10~11月 | Hunter’s Moon | 狩人の月 |
11~12月 | Moon Before Yule | クリスマス前の月 |
12~1月 | Moon After Yule | クリスマス後の月 |
1~2月 | Wolf Moon | 狼の月 |
2~3月 | Lenten Moon | 四旬節の月 |
– | Blue Moon | 青い月 |
英語圏での満月の異名いろいろ
また、先のWiktionaryには英語圏における月の異名が他にも色々と載っていました。
歴月 | 名前 |
---|---|
1月 | wolf moon, hunger moon, old moon |
2月 | snow moon, ice moon |
3月 | worm moon, sap moon, sugaring moon, crow moon, storm moon |
4月 | pink moon, egg moon, grass moon, rain moon, growing moon, wind moon |
5月 | flower moon, planting moon, milk moon, hare moon |
6月 | rose moon, honey moon, mead moon, thunder moon |
7月 | buck moon, thunder moon, deer moon, hay moon |
8月 | sturgeon moon, corn moon, fruit moon, barley moon |
9月 | harvest moon, gypsy moon |
10月 | hunter’s moon |
11月 | beaver moon, frosty moon, snow moon |
12月 | cold moon, long night moon, winter moon |
それぞれ季節感を考えながら読み解くと納得感がありますね。
あと、本表に「strawberry moon」がないのは興味深いところです。とりあえずLongmanの英英辞典にも「strawberry moon」という項目は見当たりませんでした。
ここで考えられる理由は二つです。
日本の月の異名
月の異名と言えば日本にもありますね。旧暦名称の他にも月の愛称ってあったんでしょうか。
歴月 | 名前 |
---|---|
1月 | 睦月 |
2月 | 如月 |
3月 | 弥生 |
4月 | 卯月 |
5月 | 皐月 |
6月 | 水無月 |
7月 | 文月 |
8月 | 葉月・十五夜・芋名月 |
9月 | 長月・十三夜・栗名月 |
10月 | 神無月 |
11月 | 霜月 |
12月 | 師走 |
夏至ごろの月について考える
話は戻ってストロベリームーンです。
夏の月は赤く見える?
ストロベリームーンの特徴として「6月の月は赤く見える」という話が多数ありました。これは半分合ってるけど半分間違いですね。
低高度に位置する天体は、季節によらず赤く見えることがあります。
原理としては夕日が赤く見えるのと同じ現象なので、月出や月入りの時間帯に注目すれば季節と関係なく赤い月が見られます。
夏の月は低い位置にある
…とは言うものの、北半球において夏至の頃の月が最も空の低い位置を渡るのは事実です。そういう意味では月が赤く見えやすいシーズンと言えなくもありません。
ちなみに夏の月が低い位置にある理由は、地軸が傾いてるからですね。
ある地点から見た公転面の仰角は、昼と夜で変わるんです。
太陽が高い位置にある夏の月は見かけ上低いところを通りますし、冬は逆に月がほぼ真上に見えてます。春秋はその中間。
太陽高度の季節変動は良く知られていますが、これと同じことが月についても起こっています。季節の折々で月の高さも気にしてみて下さい。
一年で最も月が低く見えるときの高度にも周期がある
また、月の南中高度に関して面白い話を見つけました。
三菱電機 DSPACE/コラム:星空の散歩道Vol.6[ストロベリームーン ー地平線に近い満月ー:渡部潤一]
2006年はまた少し特別な年です。さきほど月は太陽の通り道である黄道にほぼ沿って動くと言いましたが、厳密に言えば月の通り道は黄道に対して約5度ほど傾いています。ですから、月は黄道から5度ほど北に行ったり、南に行ったりします。この月の通り道を白道と呼びます。
ところで、白道は黄道に対して傾きを保ったまま、18.6年の周期でぐるっと一周します。(中略)ですから、(中略)この6月には前後10年の期間では、少なくとも東京などでは最も南の地平線に近い満月の条件となります。
太陽と地球と月の位置が相対的に同じ状態に巡ってくるまでの周期をサロス周期(18.03年)と呼びますが、満月の南中高度が作る周期も大筋でサロスに従っていたなんて。言われてみると納得だけど目ウロコ感ありますね。
STRAWBERRY MOON(cafe au lait mix) |
ストロベリームーンを見ると幸せになれる?
また「ストロベリームーンを見ると幸せになれるかも」という話も多数見かけました。
科学的にはもちろん根拠がないんですけど、海外のサイトを見るとハネムーンとの関連が示唆されています。6月は蜜月(ハネムーン)でもあることから、「好きな人と結ばれる」というストーリーと結びつきやすかったようです。
ただ個人的にはハネムーンって「部族同士による骨肉の略奪婚」が起源という認識なんですよね。「ハネムーン」という言葉に対して殺伐とした印象を抱いているので、それと紐付けてラブリー&ハッピーの象徴とか言われても「あぁ、そうですか」って感想しかないですね。
まぁ、信じる者は掬われるということで。
今日の夜は #スーパームーン !
しかもただのスーパームーンじゃなくて初夏の赤みがかかった「ストロベリームーン」!見ると「好きな人と結ばれる」といわれてる縁起が良いスーパームーンです!ちなみにこちらは黒地に載せたハムです。 pic.twitter.com/PTxVXWnvRf
— こらっぴ (@colappy) 2016年6月20日
骨肉のハムーン。センスありすぎる。
ストロベリームーンは49年ぶりらしい
さて。
スーパームーンに代表される「なんとかムーン」という概念には一定の共通項があります。ある特定の天文学的な瞬間から見て前後24時間以内に満月を迎えるとき、そう呼ばれることが多いと思います。
この発想の元になるのは西洋占星術におけるホロスコープの考え方でしょう。まさに「ある期間に星が入ってくる」という状況を重視します。
日本語で書かれたストロベリームーンの情報は、多くが伝聞調で書かれていたために詳細条件が判然としませんでした。しかし英語で検索すると「1967年以来49年ぶりのストロベリームーン」なる記事が複数出てきます。
つまりストロベリームーンについても「夏至の瞬間から24時間以内に満月を迎える場合」をカウントしているように見えます。
しかしGoogleにインデックスされた記事から「この数日に書かれた話」を除外して検索すると、どうも様子が違うんですね。2015年以前に書かれた記事を見ると「ネイティブアメリカンにおける6月の異称」とだけ書かれたページが多いです。
うーむ。
『アメリカローカルで親しまれていた習慣が、今年たまたま夏至当日に当たることから妙な盛り上がりを見せた。すると夏至の日付が1日ずれる日本にも、何故か海を渡って来てしまった』…という認識で良いのかな…。(;・`д・´)
おわりに
2011年に再燃したスーパームーンを皮切りに、「なんとかムーン」がやたらたくさん増えたという印象です。1年を通じて精査すると2~3ヶ月に一度は何かしら名前がついてる感じですね。
名前がつくと親しみが持てるようになるのは事実だと思うんですけど、あんまり増やすと逆効果だと思うんですよ。
自分も多少は乗っかってるのであまり強くは言えないんですけど。
天文ファンの裾野が増えて欲しいなぁと思うけど、アプローチの方法論はなかなかに難しいものですね。(´・_・`)
とりあえず、次回の夏至ストロベリームーンは46年後の2062年6月21日とのことです。
初めまして。
私もストロベリームーンをネットで色々と調べたクチです。
googleの期間限定検索で最近の記事を除外する方法は同じようですが、このあたりの記事は読まれたでしょうか?
http://www.almanac.com/content/full-moon-names
https://www.wwu.edu/depts/skywise/indianmoons.html
私はどちらかというと、ストロベリームーン擁護派なので、ご意見を聞かせて頂けると嬉しいです。
ういとらさま
大筋で同じ論調なのでよく読んで頂ければおわかり頂けると思うんですけど、私もストロベリームーンをスーパーマーズと同列に扱うのは筋が悪いという主張です。
10年も前に渡部潤一先生が言及しておられるわけですし、ネイティブアメリカンの伝統的な歴月であれば全く問題ありません。
ただ英語圏でも定義のぶれがあるようなので、そこは話半分で見積もったほうが良いだろうと言う判断です。
おち さま
返信ありがとうございます。
特定の条件としての「ストロベリームーン」なのか、単に(太陰暦の)6月としての名称なのかがハッキリしませんし、部族毎に呼称が違うようですので、定義のぶれはずいぶんありそうですね。
少し話は飛びますが、ネイティブアメリカンと月の名称で調べていると「13の月」という話に遭遇しました。
日本でも「月に映すあなたの一日」という書籍が出版されていました。
読んでみると多分にスピリチュアル臭がするわけですが、このあたりの事はいかがお考えでしょうか。
天文の古い呼称は色々なジャンルの話がまぜこぜになって伝わってくるので、分離するのが大変です。
>ういとらさま
お返事遅くなりました。
「13の月」というのがブルームーンに相当するものであれば、閏月に類するものでしょうから、天文学的な要素は十分あると思います。
スピリチュアルっぽい用語も、もとを辿ると観測的事実に基づいてそうなことは多いです。運用する側で天体の運行に理解がないから、意訳意訳でおかしくなってしまったんじゃないでしょうか。
そういう意味ではかつての占星術が一級の科学だったことと表裏一体で、世界をフラットに理解しようとする人はいつの時代も少数派だったのだと思います。
占星術と天文学の関連は以前書いたのでご参照下さい。
「占星術(星うらない)はウソか科学か元天文部員が考えてみた」 http://www.02320.net/is-fortune-telling-science/