現在、上野の国立科学博物館にて開催中の企画展「渋川春海と江戸時代の天文学者たち」を見てきました。
小説『天地明察』で一躍名を馳せた、江戸幕府の初代天文方・渋川春海(1639-1715)の没後300年を記念しての企画展です。渋川春海と題されてはいますが、江戸時代中期以降の測量技術をざっくり俯瞰できるような内容でした。
「渋川春海と江戸時代の天文学者たち」展示概要
会場 | 国立科学博物館(東京・上野)日本館1階 企画展示室 |
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開催期間 | 2015年12月19日(土)~2016年3月6日(日) |
料金 | 一般・大学生:620円 高校生以下・65歳以上:無料 |
公式情報 | 「渋川春海と江戸時代の天文学者たち」- 国立科学博物館 |
常設展の入館料で観覧可能、同時開催のワイン展は別料金です。
会場内は、人の邪魔にならなければ写真撮影OKで嬉しい。展示物によっては細かく撮影不可マークがついているので注意して下さい。
なお、2/2以降で一部の展示内容が差し替えとなるそうです。本展の図録はありません。
江戸時代の天体観測技術
全体は大きく4つの構成に分かれます。
渋川春海とその時代
江戸幕府の天文方として「貞享暦」の策定に関わった渋川春海にまつわる展示から始まります。トラックボールでグリグリ動かせる星図が最初の見どころ。
来たぜ。
2016年1月9日
天文学者 徳川吉宗
少し奥に進むと、徳川吉宗が作らせたという3m以上の望遠鏡が鎮座してます。細かな革細工が美しい。
大きな展示は吉宗時代のものが多いです。浅草にあったという天文台の模型や、吉宗自身の観測の記録などが続きます。
享保の改革を始めとして、蘭学や技芸に関心のあった吉宗ならではですね。
渾天儀とは、天体の位置を正確に測定するための道具です。あまり裏の方までは見えにくいんですが、いろんな角度から隙間をのぞき込むと星を狙うための機構や精度を出す工夫が判ります。
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高橋至時と市井の天文学者たち
高橋至時は測量器好き(?)の方ならご存じ、伊能忠敬の師匠です(年齢は伊能忠敬の方がずっと上)。象限儀など、この時代に花開いた測量技術の高さが伺える精度の高い機材が展示されていました。
垂揺球儀(すいようきゅうぎ)は振り子の触れた回数を記録するもので、振り子時計と言われることもあります。伊能忠敬が使っていたもの(複製)。
振り子運動の観測から現在地情報や時刻を割り出す道具ですが、江戸時代であるにもかかわらず盤面にゼロを表す「0」が刻字されてるのがミソ。一般市民の場合は「零」や「十」「廿」といった表記を使うことのほうが多かったでしょうね。
【 関連記事 】
フーコーの振り子が緯度ごとに回転角が変わるしくみ(と計算機)
科博に展示されているフーコー振り子も同じ仕組みで緯度や時刻が判ります。簡単なシミュレータも付けてるので数字変えてみて下さい。
また、月のクレーターを描いた掛け軸も見事です。満月の時は細かいクレーターが判らないので、月齢が違うタイミングで少しずつ記録したものとのこと。
高橋景保と渋川景佑
最後は高橋至時の子、高橋景保・景佑兄弟のゾーンです(景佑の姓が違うのは渋川家に養子に出たから)。
景保はシーボルト事件の人ですね。国外に持ち出すことが禁じられていた地図をシーボルトが持ち出したかどで処罰されました。市民感覚だと「地図を渡したくらいでどうした」って感じですけど、よくよく考えると暦と地図は常に国防の要なのでありました。
江戸後期の人達の細かな技術が目白押しで、当時を想像するとなるほどー!って感じだったんですけど、撮影禁止ばっかりで全然撮れなかったので気になる人は見に行って下さい。
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景保でてます。 |
旧暦(太陰太陽暦)を作ってみよう
あとテーブル一つだけのブースでしたが、旧暦を割り振るワークショップが地味に良かったです。これは何かというと、下記のルールに従って決定される太陰太陽暦の仕組みを追体験できるというもの。
具体的に手を動してみると、知識として知ってたことの意味を実感できます。初級編として平年の2016年が、上級編として閏月が発生する2017年が分かれてたのも素晴らしい。
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ちなみに、ここでは用意されてないけど最難問は2033年ですね。1844年(天保15年)に天保暦が制定されてから、ずっと滞りなく作図できていた旧暦が、初めて破綻するとされてます。
国立天文台でも解説されてるけど、「もー知らんがな」って感じで味わい深いのでありました。(^^;
旧暦2033年問題について
必見の常設展示
また、本会場向かいとなる日本館1階南翼の展示も必見です。
…というよりも、むしろ科博の企画展は「膨大な常設展の見どころををサジェストするため」にあるくらい。天文や測量器に関する展示を中心的に見ていくのがおすすめです。
のっけから明治5年の大改暦に関する資料などがあります。天保暦→グレゴリオ暦に改暦されたときのカレンダーですね。最後の旧暦師走は朔日と大晦の二日しかありませんでした。(ただし一般に出回った左上の旧年暦は三日以降も書かれてます)
ちなみに、明治5年12月2日の翌日(旧12月3日)をもって明治6年1月1日に急遽定められた理由が「給料の支払いを1ヶ月ちょろまかすため」というのが良くも悪くも非常に日本的だと思うの。
この望遠鏡はちょっとした仕掛けが込められてて、気付くと「にやり」とさせられるメタ展示になってます。
このフロアには他にも不定時法の時計盤や天賦式時計など地学関係の展示が目白押し。是非会場で現物をご覧になって下さい。
江戸の天体観測技術を見てきた感想
そんなわけで、江戸時代の天体観測記録をいろいろ見てきました~。
最初にも書いたけど、本展示会には図録がありません。会場での撮影は許可されていたものの、「おっ?」と思うものはすべて撮影禁止だったので、図録があることを期待していたのですが。
帰りに買う気まんまんだっただけに、もーほんと一点ここだけが残念でした。
出口のところで地味に展示資料リストが置いてあるので、うまいこと検索すると国立天文台などのデジタルアーカイブが引っかかると思います。
メイン会場は1部屋ですし、観覧の所要時間は割とあっさりめだと思います。興味ない人が流し見するだけなら15分ってところでしょうか。
…って、自分のカメラのタイムスタンプ見たら本会場と常設の関連展示(日本館1階南翼)で2時間くらい見てました。それでもモロモロあって他のフロアに切り上げたので、好きな人はもっといられると思います。
要するに温度差が違う人と行くと確実に揉めます。ご参考マデ。
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