桃をアルミホイルで包むと1か月保存できる理由を調べてみた

桃をアルミホイルで包むと長期間おいしく保存できる理由を科学的に考察しました。

桃をアルミホイルで包むと1か月保存できる理由を調べてみた

傷みの早い桃をアルミホイルで包むと長期間おいしいまま保存できるとのこと。数年前に「産地での知られざる裏技」として一気に広まりました。

なぜアルミホイルで桃を包むと長く保存できるのでしょう。理由が気になるところですが、検索しても「やってみた」系の話が中心で仕組みについてはよくわからず。それでも実際に試した人は、おおむね満足いく効果を得られているようです。

でも何か理由があるはずだ…と調べているうちに興味深い情報を見つけました。ここ数年で果物の輸送技術が上がり、日本の高級フルーツが続々と海外に輸出されているというのです。しかも時間のかかる船便で。

へー。

桃が船便で輸出できる!?

近年、日本の果物が海外で人気という話はすでに報道で知っていました。実際、桃の輸出も爆発的に伸びてるとのこと。

やはり主力は航空便のようですが、なんにせよ桃が船便で海外に送れているという事実がすごい。船便は航空便と比べるとずっと時間がかかりますからね。

CA輸送

そこで桃の鮮度輸送について調べてみると、CAコンテナなる秘密兵器にたどり着きました。CAとは Controlled Atmosphere の略で、空調により青果の品質劣化を防ぐ貯蔵技術です。

空輸に匹敵する品質を保ちつつ輸送コストを大幅に下げる技術として、業界の注目を浴びてるようです。輸送技術の研究をしている会社に詳しい情報がありました。

■CA輸送とは
通常、青果物は収穫後も呼吸し、成長、成熟しており、呼吸のためのエネルギー源として自身の糖分を使うため品質が低下していきます。
CA輸送は、リーファーコンテナ内の空気組成をセンサー制御し、低酸素・高二酸化炭素状態へと人工的にコントロールすることで青果物の呼吸作用を制御するもので、低温との組み合わせによって青果物は「冬眠状態」となり、品質低下スピードが遅くなり鮮度を保つことができます。
さらに、湿度の調整機能を当社独自の技術で付加(特許出願)することで青果物の乾燥を防ぎ、長期間の鮮度保持を可能にしました。
鮮度保持輸送 – 株式会社MTI

すげー、ほとんどSFのコールドスリープじゃん。収穫後も成熟を続ける果実を人工的に休眠させることで、追熟を極限まで抑えてるんですね。

いずれにせよ、これは桃アルミ箔の理由を読み解く重大なヒントになりそうです。どうやら桃の長期保存に必要なキーワードは 脱酸素・高二酸化炭素・低温管理・保湿 ってところですね。

桃をアルミ箔で包む意味

保湿と低温管理だけならラップに包んで冷蔵庫に入れておけばよさそうですが、問題は「低酸素・高二酸化炭素」状態の再現です。

もともと桃をアルミホイルで包むというテクニックを知ったときは「桃果汁に含まれる酸によってアルミ表面が電気的になんちゃら…」という理由を想像していたのですが、どうやらそういうことではないらしい。

「酸素を除去して二酸化炭素を増やす」という目的を特別な装置を使わずに実現したい場合、密室に生きもの押し込めとけば良いわけですが()、植物だと光合成をしてしまう。だったら光を遮断すれば呼吸優勢になるのでは。そしたらアルミ箔が最適ってことになるでしょう。

【2018-10-18:追記】静岡大学化学科の坂本教授より「冷蔵庫の中は暗いから光合成は考えなくてもいいのでは」とのご指摘をいただきました。

確かに冷蔵庫の中は十分に暗く、ドア開けたときにちょっと庫内灯と外の明かりを浴びる程度です。特に神経質になる必要はないかもしれないんですけど、光合成には「常時光源よりも高速で点滅する間欠光源の方が効率よく酸素を作る」という性質があるんですよね(「光合成の明反応・暗反応」で調べるといろいろ出てきます)。

いわゆる白物家電に使われるLED照明は、原価圧縮や省エネ対策などの理由により高速点灯するタイプが主流です。もしかしたら短時間の照射でも影響あるかもしれません。近頃では、野菜室に光合成用LED照明がついてる冷蔵庫もありますからね。

植物と呼吸

日ごろ忘れがちですが、植物も酸素を吸って二酸化炭素を出してます。ざっくり知りたいときは中学理科の教科書を見てください。詳しい仕組みは高校生物の教科書に載ってるはずです。

ちなみに光合成は葉っぱの専売特許ではなく、果実などほかの器官でもある程度起きてます。

桃のデータが見つからなかったので、リンゴ果実における光合成・呼吸について調べた研究を置いときますね。
リンゴ果実における蒸散、光合成及び呼吸速度の季節変化 – 果樹研究所

読み方の補足をすると、光合成速度が重量あたりと1果あたりで単純比例してないことに注意します。重量あたりの光合成能力が落ちても、出荷期に向けて一気に肥大化するので代謝総量としてはそこそこキープされるのがミソ。あくまでリンゴの研究ですけど、桃もリンゴもどちらもバラ科植物なのでそんなに的外れな資料ではないでしょう。

書いてるうちに思い出しましたが、光合成するときの反応には水が使われますね。…ということは、収穫後の果実に光を当てるとシワシワが加速します。

そして呼吸によって発生する二酸化炭素の原料は自分自身の糖分ですから、これはこれで反応を押さえたい。適度に冷やせば呼吸はかなり抑制されるはずです。ついでにいえば、樹脂由来のラップよりアルミ箔のほうが均一に冷えて熱伝導の点でも有利なんでしょう。

あとアルミ箔には気体を通しにくい性質もあります。ヘリウム風船を作るときに、アルミ蒸着したフィルムを使うと浮力が長持ちするのもそのため。ゴム風船だと分子の見えない隙間からどんどん気体が抜けちゃうんですよね。

まとめ

桃

桃をアルミ箔で包むと長期保存できる理由は、青果用コンテナの保存技術に読み替えるのがよさそうです。そのときに重要とされる要素は以下4つ。

  • 酸素濃度
  • 二酸化炭素濃度
  • 温度管理
  • 水分管理

これらの複雑な条件を家庭で手軽に満たせるのが「アルミ箔に包んで冷蔵庫に放り込む」なんだと思います。

桃アルミ箔の注意点

ネットでの体験記をあさると実は賛意だけではなくて、失敗談もたくさん転がっています。

「見た目は悪くないが甘みがなくなった」
「食べられないことはないがシュワシュワする」
「むしろ対照実験で放置したシワシワ桃のほうが甘い」

…といった記述が散見されました。これ、果実の呼吸量が高いと起こる状態ですよね。アルミ箔で包まなかったシワシワ桃のほうが甘いのは、セミドライになって甘みが凝縮されたんだと思います。

もともと店頭で売ってる桃はそのままでもおいしく食べられる状態で出荷されてますから、そこから一か月もたせようというのはだいぶ冒険野郎という説も。輸出用の果実も、少し早めに出荷されてるようですし。

長期間おいしく保存できたという実例は、家庭での追熟が必要な贈答用の大箱とか、固め品種での話って気がしますね。店頭で2~3個パックになってる桃は、やっぱ早めに食べたほうがよさそうです。

桃アルミ箔が保存に効く理由は相変わらず推論ですが、悪くない線じゃないでしょうか。もし、より確かな理論をご存知の方はお知らせいただければ幸いです。(・∀・)

おまけ

【2018-10-19:本章追記】ここまであれこれ理屈をひねり出しておいて何なのですが、ラップとアルミ箔で比較したところ半月程度の保存では効果に違いがないという衝撃のご意見を頂きました。(笑)

やはりこれは実験の数を打たないと判らないことになってきたので、引き続き効果を観測していきたいと思います!