今日、7月15日の誕生花はネムノキらしい。
繊細な葉を持つネムノキは明るく風通しの良い木陰を作り、初夏に絹糸を思わせるピンクの花をたわわにつける。この季節に生まれた人を祝う植物としてネムノキを選んだ人はセンスが良い。
夜ごとに葉を閉じるさまが、まるで眠っているようだとしてその名がある。
で。その就眠運動をとるネムノキが、漢方では不眠症の薬になるというのだ。眠れる植物が人々の睡眠をいざなう。
…ちょっと待て。話が出来すぎじゃないのか。
薬膳と同物同治
最初に脳裏をよぎったのが、薬膳における同物同治(どうぶつどうち)だ。
医食同源の発想を持つ中国では、患部と同じ部位の食材を取り込んで健康を補う習慣がある。たとえば肝臓が悪ければ牛などのレバーを、心臓を強くしたければハツ(心臓)を食べるというように。
患部と似た組成の部位を食べることで、病巣にダイレクトに栄養が届くことを期待している。お肌のためと称してコラーゲン飲むのと似たようなものだ。
アミノ酸レベルまで分解されれば何を食べても一緒という話もあるし、そもそも本質的に栄養が足りてなければ優先的に使われるので全くの俗信とは言えないという話もある。
医薬生物系の人に聞くと大抵どちらかの答えが返ってくるので、信じるかどうかはコスパ実感で決めるしかない。
植物も同物?
えーと、話がそれた。
要するに「眠れないからネムノキを飲もう」という行動パターンが、同物同治に思えてならないのだ。
ネムノキは本当に不眠症への有効成分を持っているのだろうか?
不眠症薬としての合歓皮
漢方でネムノキは合歓皮(He-huan-pi)という。「ネムノキ(合歓木)の樹皮」なので、ネーミングとして判りやすいことこの上ない。
「ま、不眠に効くと言っても数あるハーブの一つでしょ」と思ったら、どっこいネムノキは不眠症患者に処方される代表的な生薬だそうだ。
科学論文サイトで「insomnia ‘herbal medicine’(不眠症 薬草)」と検索すると、普通にネムノキ出てくるし。「ネムノキ 成分」とかにすると結構な確率で「ネムノキと言えばアジアで伝統的に使われる不眠症ハーブ」などと書いてある。
台湾の不眠症患者に処方された漢方薬の追跡調査によると、3万件近い処方箋の1割に合歓皮が使われていた。処方量で言うと多い方から4番目に当たる。
Prescriptions of Chinese Herbal Medicines for Insomnia in Taiwan during 2002
マジかよ、めっちゃメジャーじゃん。疑ってすみません。
ネムノキの薬効
さて、ネムノキの樹皮が伝統的に不眠症の治療薬として使われることはわかった。
で、現代薬理的に言うとどうなのか。
何本かの論文を斜め読みしたところ、実際ネムノキの樹皮には鎮静効果や抗炎作用があるようだ。 いくつかの成分が単離されていて、うつ病、不安、不眠症に効果があるとの記述も見つかる。
しかしインドの研究チームによると、不眠症に効くのは花だという。
PHARMACOLOGICALLY ACTIVE SAPONINS FROM THE GENUS ALBIZIA (FABACEAE)
どっちだよ。
結論
いずれにせよ、ネムノキはある種の抗うつ薬と考えてよいのだろう。神経性の不眠症に一定の効能もありそうだ。
オーストラリアの研究チームも、ネムノキは不安障害に対する有望な研究対象だと言っている。
Herbal medicine for depression, anxiety and insomnia: A review of psychopharmacology and clinical evidence – ScienceDirect
…んが。
斜め読みした論文の中には「生薬なので成分量が安定しない」「医薬品としての有効性には更なる評価を要する」(いずれも意訳)」というような記述も結構あった。
えーと、「確かに有効成分は認められるけど、臨床で確実に効くどうかは別の話」という理解でよろしいか。私の貧弱な脳みそでは評価不能と言わざるを得ない。
まさかこんな思い付きの裏づけ調査をするために休日を一日潰すとは思わなかった。
何が不眠症薬だ。結論が気になって今夜は眠れそうにない。
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