発芽したイチゴがおぞましいの前にやることチェックリスト

インターネットで定期的に話題になる「発芽イチゴ」の解説です。気持ち悪いと思うかどうかはご自由に。

発芽したイチゴがおぞましいの前にやることチェックリスト

先日、園芸初心者の友人からイチゴの育て方について質問されました。

通りいっぺんの回答を返しつつ、更に気の利いた情報がないかとぐぐったところ、イチゴの育て方「じゃない」写真が山ほど出てきてげんなり。

「イチゴ 発芽」の検索結果が奇形イチゴばかり

Googleの検索結果に表示されたイチゴの写真は みな種の部分が発芽したように見える奇形個体の画像ばかりでした。

イチゴが発芽した奇形写真

(((( ;゚Д゚))){ こ、これは…?

あー、これは以前おち研でも取り上げた 発芽イチゴ』じゃないですか!

発芽イチゴとは…

定期的にインターネットで話題になる、「実についた種がそのまま発芽したように見えるイチゴ」を勝手に『発芽イチゴ』と呼んでおります。

苺を育ててる人はたまに見たことあると思うけど、これはタネが発芽したわけではなくて本来タネになるはずの組織が葉として発現した状態です。

確かにびっしり葉っぱになってるとびっくりするし本来とは違う育ち方をしたのには違いないんですけど、『【閲覧注意】』だの『グロテスク』だの大の大人が下品すぎるでしょ。

【関連記事】

【エキナセア・ダブルデッカーの語源と花が奇形かどうかって話】

こちらも「植物の奇形」について。

イチゴのツブツブとは何かを考える

イチゴのツブツブは分類上「痩果」と呼ばれる組織です。正確に言うとそれぞれの粒一つ一つはタネではなく果実に相当します。

痩果を作る植物は他にタンポポなどが有名。

ただ、あのツブツブを取り出して土にまけば実際に芽が出て育つのであって 一般的な感覚で言えば十分「タネ」として扱って構わないでしょう。

痩果は元「しべ」

この痩果、花の時点では「しべ」として機能していました。熟した後の表面をよく観察すると「タネ」の表面からちょろっと毛のようなものが見えます。

その毛が、「しべ」だった頃の名残です。

では改めて花だった時代にさかのぼってみましょう。

八重の花びらは何が由来?

ところでイチゴはバラ科に属するのですが、一重と八重では随分見た目の印象が違いますよね。

八重のバラ一重のバラ

このとき八重の花びらをぜんぶ取り除いてみると、残る花托には一重のバラと比べてほとんどおしべやめしべがないことに気づくはずです。

むしって散らばった花びらこそが、おしべ・めしべの変化したものですね。(そんなわけで八重咲きの園芸植物は結実しにくい品種が多いです)

更に元をたどると、がく・花びら・おしべ・めしべは葉が変化したものです。つまり、ふとしたきっかけで互いに入れ違うことがあります。

なにぶん適当に切り取っても埋めときゃ根が出るくらい変化しやすい構造なので、組織が入れ替わるなんて植物にとっては良くあることです。

イチゴの葉状果(葉変果)

【本章追記:2016/05/16】発芽イチゴが発生する条件について質問を受けたので調べてみました。

イチゴ果実の生理障害(異常果)のなかでも、痩果から葉っぱのようなものが出てくるものを葉状果(あるいは葉変果)と言います。

また、組織の一部が本来と異なり葉っぱのように変化する現象を一般に葉化(phyllody)と言います。葉状果はより大きな括りで見ると葉化の一種です。

葉化(phyllody)現象

イチゴの葉化について検索すると、バラエティに富んだ例が見られます。

痩果が葉化した組織が完全な葉っぱを作った状態、開花段階から葉のように見られる状態、いろいろあるようです。

イチゴの葉化現象 strawberry phyllody – Google 検索

自宅のイチゴ栽培例では発現したりしなかったりなので原因がよく分からなかったのですが、調べてみると病原性の細菌「ファイトプラズマ」によって引き起こされる説が有力とのこと。

ファイトプラズマに感染した植物は様々な病徴を示しますが、特に花器官において、花が葉になる「葉化」や、花から若芽が出現する「つき抜け」などのユニークな病徴を引き起こすことが知られています。
植物病原体が花を葉に変えるメカニズムを解明 | 東京大学大学院農学生命科学研究科

他にも論文検索サイトで phyllody を検索すると、多くの論文に Phytoplasma(あるいは Mycoplasma-like organism:MLO ) という単語がセットになっていることがわかります。

ファイトプラズマ病

ファイトプラズマによる植物の病変は花の葉化から黄変、枯死など多岐に渡るようです。ヨコバイなど草の汁を吸う虫によって媒介されるとのこと。

ウンカ・ヨコバイ・キジラミ類図鑑

お前か!

ファイトプラズマは植物がもつ遺伝的形質を複雑に抑制することで変わった形に変えてしまいます。園芸植物では枝変わりの珍種として重用されることがある一方、農作物において果実の異変は収量の低下に直結するため致命的でしょう。

現状では治療法がないようなので、見つけ次第処分するしかなさそうです。

あとイチゴは親株からの匍匐茎によって増えるんですけど、経験的に親株と一番近い子株イチゴは収量が望めないことが知られています。

近年では成長点付近の新鮮な組織から苗を取るメリクロン培養が盛んですが、発想としては同じ考え方なんでしょうね。

結論:発芽イチゴは発芽してない

そんなわけで、「イチゴのツブツブが発芽した」と言われている現象は「本来タネになるはずの組織がうっかり葉になったもの」だと改めて主張したい。

発芽じゃありません、結実した状態が葉っぱっぽく見えてるだけです。

確かにほとんどのツブツブが葉っぱみたいになるのは珍しいことです。気持ち悪いって思う気持ちは勝手だけど、「ありえない」は単なる無知なので、あまり騒がない方が賢明だと思うの。

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発芽イチゴイチゴの種が発芽したように見える写真はコラじゃなくて実写

発芽条件からのアプローチです。

【 更新履歴等 】

2013/07/03 初稿発表
2014/03/09 写真追加しました
2016/05/16 ファイトプラズマについて追記しました