以前なにかの番組で「桜前線の北上スピードは時速800m」と聞いた覚えがありました。
そこでは計算の根拠が示されてなかったので、自分なりに検証してみようと思います。
桜前線のルート設定
桜前線とは、日本各地の桜の開花予想日を結んだ線のことを言います。
観測対象としては主にソメイヨシノが用いられるため、ひとまず沖縄地方を除外して考えることにしましょう。
桜前線の検証に沖縄を除外する理由
桜前線の時速を調べるにあたって沖縄地方を除外する理由は、ソメイヨシノが咲かないからです。ソメイヨシノはある程度の寒さを経験しないと花を咲かせる準備に入らないのですが、冬でも暖かい沖縄はソメイヨシノの花芽形成条件を満たしません。
ソメイヨシノに変わって沖縄でメジャーなカンヒザクラ(寒緋桜)は現地で1月から咲き始めるため、ソメイヨシノの開花日と混ぜると計算がよくわからないことになっちゃうのです。
ちなみに、カンヒザクラとヒガンザクラは間違えやすいけど別物だからご注意ですよ。
桜前線は本当に「北上」しているのか
…というわけで、鹿児島から北海道の桜前線について考えます。
ここで重大な罠が一つ。
桜前線の北上が鹿児島の南端から始まってくれてればいいんですが、実は鹿児島の開花日はそんなに早くありません。過去のデータを見ると鹿児島より東京のほうが開花が早い年もあるくらい。県庁所在地ベースでは高知が起点ということが多いです。
その後も海流や地形の影響により進路は蛇行するため、最後の開花地も北端の稚内ではなく道東の根室となります。
そこで、仮想的な桜前線の進路として右のような折れ線ルートを設定しました。
正確な「北上速度」を得るには進入角からsin値を求める必要がありますが、そもそも正確な値を設定するのは困難なので、ここでは道のりの速度とします。
評価期間を3区分する
さらに桜前線の特徴的な傾向から、評価期間を3つに分けます。
まず北上ラインが入り乱れる高知~東京までの期間、次にルートが安定する東京~青森間、最後に進路が折れる北海道です。
鹿児島~東京区間が咲きそろうまでに5日くらいかかることになるんですが、実際には高知から始まって東京が咲いてから近畿に戻っちゃったりしています。ここでは単純化のため、高知~東京を三日としました。
各期間の設定は、気象庁の開花記録を参考にしています。
気象庁 | 生物季節観測の情報
桜前線の北上速度
設定が出そろったところで、ドン。
高知~東京 | 東京~青森 | 北海道 | |
---|---|---|---|
期間 | 約3日 | 約30日 | 約25日 |
時速 | 1.8km/h | 0.8km/h | 0.8km/h |
日速 | 約45km/d | 約20km/d | 約20km/d |
高知で開花が確認されてから東京で咲き始めるまでが時速1.8Km、それ以降は若干スピードを落として時速800mという感じになりました。※脚注参照
いつか聞いたことのある「時速800m」というのは、進行が安定する東京以北の話だったようです。
実は北海道の厳寒区もソメイヨシノがないので、途中から代替品種のエゾヤマザクラと混ざっております。…にもかかわらず北海道の場合は東京~青森と同じ流れで咲くんですね。ちょっとした驚きでした。
桜前線の速度感覚
時速800mというと、赤ちゃんのハイハイやルンバの突進と同じくらいでしょうか。プラレールの標準車両が時速1Kmくらいだそうですよ。
時速1.8Kmのほうは秒速に直すと50cmってことになるので、「ソメイヨシノが東京を目指すまで」は「桜の花びらが舞い落ちる速度」のほぼ10倍ってことになりますね。
秒速5センチメートル / 新海誠 |
【脚注と言うか細かい話】本論は文中で定義した桜前線進路を基準に計算しています。東京~青森、青森~根室はほぼ直線距離相当ですが、「高知~東京」は太平洋沿岸線が桜前線によってスライドする斜交座標系を考えたほうが実測との誤差が少なそうだと考えました。この条件で北上のベクトル成分のみ取り出しているため、本稿では高知~東京を130Km相当として計算してます。(参考までに高知~東京の単純直線距離で計算すると時速8Kmくらいです。)
【2018-03-27 : 追記】タイトル含め、計算間違ってた部分を修正しました。
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