インフルエンザ予防接種の痛くない注射針が地味に痛い

「痛くない」といわれる極細注射針は、普通の注射針と違うタイプの痛みなのが詐欺っぽいと思います。

インフルエンザ予防接種の痛くない注射針が地味に痛い

毎年インフルエンザの予防接種に通っているクリニックは、いわゆる『痛くない注射針』を採用している。蚊の口吻にヒントを得て作られたという、極細針のことだ。

しかし、これがまた痛い。静脈注射と皮下注射という違いを差し置いても痛い。客観的に見て痛いかどうかで言えば大して痛くない部類に入るのだが、痛いものは痛いのである。

痛みのピークが二回ある

注射における痛みのインパクトは針に刺されることだけではない。むしろワクチンの薬液が注入されるときの方が痛いくらいだ。そして後者の痛みは残念ながら今のところ据え置きである。

従来の注射針の痛みかた

今までは注射針が刺さった瞬間から薬剤の注入が終わるまで、一連の切り分けられない痛みだった。

従来の注射針の痛み

注射が刺さった瞬間から痛いので、ある意味期待通りの流れと言える。予想外の事態が発生しないという点で普通に耐えられる。

痛くない注射針の痛みかた

それが今はどうだ。一瞬「ぷつっ」と軽い刺激が来たあと、すこし遅れてワクチン投与の痛みが来る。

痛くない注射針の痛み

患者は注射針が刺さる瞬間がクライマックスだと思っているので、注入に伴う痛みは完全にノーマークだろう。挿入の痛みが劇的に軽減された分、ハッキリ言って詐欺に近い。

もちろん、痛みの総量を定量的に測れば痛くない注射針のほうが痛くないことは判っている。

だが、本質的に「痛み」は極めて主観的な認知によって成り立っていることを忘れてはいけない。

ドクターが「痛くない」を連呼するから痛い

ここで、私が先日見た出来事を紹介したい。

ある兄妹と医師の予防接種現場より

その日、待合室には人々が溢れていた。その医院はインフルエンザ予防接種だけで専用ラインが設けられてる、ちょっとした規模のクリニックだった。スタッフも患者も慣れたものだ。それほど長く待つこともなく、次々と奥に通されていく。

流れ作業で進む工程は隣の人の様子も丸見えだったが、服を脱ぐでもない集団接種と思えば別に気になるほどでもない。私の前には幼い3兄妹とその親がいた。医師はワクチンの用意をしながら長子と思われる男の子に話しかけている。

医「お兄ちゃんは注射どう?平気かな?
兄「僕は大丈夫
父「うちの子は赤ん坊の頃から注射で泣いたことがないんですよ
医「そう~うちの注射は痛くないから大丈夫だよ~。(と言いながら注射する)
兄「…っ…!?
医「ハイ、終わったよ~全然痛くなかったでしょ?
兄「え…いや…少し痛…

お兄ちゃん、明らかに釈然としてない感ある。次は第二子と思われる女の子だ。

医「次はお姉ちゃんだね~。痛くないからね~。
姉「うん頑張る…(ここで注射)っ…ふぁっ!? Σ(゚Д゚;)」

耐えてる耐えてる。末っ子ちゃんの手前我慢してるけど、めっちゃ耐えてる。

医「は~い、さすがお姉ちゃんだね~。」
姉「…。(;´Д`) =3」

お姉ちゃんも物憂げである。いくら改善が進んでいるとは言え、注射には いかばかりかの痛みが伴う。それをまるでゼロであるかのように振る舞うのは幼子にとって嘘と同義であろう。

医「それじゃ最後の子おいで~。

末「( ;゚ω゚))))){ ……!

兄「……!Σ(・∀・;)
姉「……!Σ(・∀・;)

末っ子ちゃん、完全に及び腰である。そりゃそうだろう。お兄ちゃん達が浮かない顔をしているのを眼前で、まさに目の高さで、一部始終を見ているのだ。

ドクターよ、ここは状況を理解してない末っ子ちゃんを最初に通してうやむやのうちに済ませるのがベストだった。だが残念ながら ここは小児科ではない。張り詰めた緊張の閾値はとうに超えた。

診察室に響き渡る絶叫。母親は末っ子ちゃんを抱きすくめて足を押さえつけている。部屋の隅に置かれた人形を指さして あやそうとする姉、おどけて気を引こうとする兄。なんと素晴らしいチームワークであることか。

その瞬間、病室から音が消えた。夏空に響き渡るけたたましい蝉の声が、不思議と静寂を呼ぶように。

父親は「今まで一度も泣いた事なんてなかったのに…」とうなだれていた。わずか2分足らずの出来事だったが、私もほとほと疲れ果てた。

医療者に望みたいこと

世間話でもしながら しれっとヤリ逃げすれば良いものを、貴方どうしてわかりきった嘘をついたの。騙すなら最後まで夢を見せてくれたら良かったのにね。

陳腐な歌謡曲が量産される勢いである。

とまれ医師は誠実であるべきだ。

そして人は「全然痛くなかったでしょ?」と言われればどこまでもあら探しをするし、「よく頑張ったね」「お疲れ様でした」と言われれば「まぁどうにか」と答えるように出来ている。

最初に期待感を持たせない方が総じて平和だと思うのだがどうだろう。医療者の皆さんにおかれましては是非再考されたい。

かくて無痛針だと言って打たれた私の二の腕は、今も触れると少し痛い。

【2018-10-18:追記】今年のインフルエンザ予防接種担当の方は、「刺すときはそうでもないけど、お薬入れるときにちょっと痛むかもしれません」という表現をしていました。とても誠実。(笑)

【 更新履歴等 】

2014/11/22 初稿発表
2015/11/12 図を足しました