炎天下での運動が楽しいことを運動オンチはちっとも判っていない

熱中症予防にはドクターストップをシステム化することが必要だと思います。

炎天下での運動が楽しいことを運動オンチはちっとも判っていない

熱中症に関する報道が続いています。

それを受けて「熱中症になったときの対処法」「真夏の野外スポーツは中止しよう」という類の記事を毎日のように見聞きします。

それでも、真夏の野外で運動をして倒れる例が絶えません。

あまり大きな声じゃ言えないんですけど、炎天下で体動かすのって楽しいんですよね。

ランナーズハイ

ハードスポーツの経験者にはおおむね同意してもらえると思うのですが、炎天下での運動には独特の楽しさがあります。

始めのうちは「この暑さの中で練習するなんて絶っ対にイヤだ」と思っていても、だんだん楽しくなってくるものです。

私は陸上競技歴が長いので「ランナーズハイ」という単語が思い浮かぶのですが、おそらく他の競技にも固有の高揚表現があるでしょう。

体に良くないと頭ではわかっていても、ついついやっちゃう。

ランナーズハイとは

ランナーズハイとは、長時間の運動によってもたらされる特有の恍惚感です。

医学的には「耐えがたい肉体の苦痛を和らげるために脳が自ら痛み止めを分泌している状態」と理解されているようです。

ランナーズハイの原因物質にはいくつかの候補が挙げられており、いずれも鎮痛作用が知られています。それぞれモルヒネやマリファナと同様の効果を持つことから、ときに脳内麻薬と呼ばれることも。

Runner’s High: Opioidergic Mechanisms in the Human Brain | Cerebral Cortex | Oxford Academic

注:論文の概要と実験手法が参考になったのでリンク貼ってますが、2008年のものなので各論では古い部分があるかも知れません。

効果は人それぞれかもしれませんが、私の場合は冷静さを保ちつつ好戦的な心理状態になることが多いです。スポーツ漫画で言うと、ライバルと対戦する前夜のワクワク感が近いかも知れません。

肉体疲労と空元気

ただ、本質的には限界に近づきつつある肉体を化学物質でごまかしているだけのはずです。本人が大丈夫だと主張していても、その判断力が正常である保証はありません。

幸いなことに、陸上競技の場合はタイムという客観的な指標がありました。自分はまだ走れると思っていても、事実としてパフォーマンスが悪いようなら「実は疲れてるのかも?」という判断を下しやすい。

このフィードバックを何度も繰り返すことで、自分の疲労を客観的に観察できるようになる(ことがある)。つまり、自分の疲れを俯瞰的に説明するには充分な訓練が必要です。

経験上、この能力が備わるのはどんなに早くても高校生くらいからという印象です。小さな子に対して「気分が悪くなったら教えてね」と言ってもまず無理でしょう。大人だって適切なタイミングで弱音を吐くのは難しいのです。

自分の限界

炎天下の野外で頭痛を感じたら、まず脱水症状を疑いますよね。

でも暑さに強い人だと、猛暑日の真っ昼間でもむしろ心地よい高揚感を感じてしまったりする。その時に「大丈夫」ではなく「もしかして今ちょっとヤバいのでは?」と思えるかどうかはかなり大きい。自分の場合、ここで無理をするとしばらく尾を引くことが多いです。

普通は元気な時に休憩を取ろうと思わないし、本人も無理をしている自覚がほとんどありません。これが部活動などであれば、おそらく指導者も無理をさせてる意識はないでしょう。

でも人体の生理機構を考えたら負荷がかかっているのは自明なので、「大丈夫」という判断を疑うほうが妥当です。

北風と太陽

昨今の熱中症報道で気になっているのは、SNSなどで過熱する「この猛暑に外で運動する or させるなんて気が狂ってる」「力尽くでもやめさせろ」というような市民の意見です。

私も炎天下で運動してる人を見ると「体に悪いからやめなよ」と思うんですが、面白いもので自分が言われる立場のときは「うるせぇな」と思うんですよね。

運動してない自分と運動してる自分では、精神状態に差があります。

もともと一人でやる運動が好きなので他人様には強要しないんですけど、自分一人だとついつい度を超しがちです。「普段はむしろ面倒くさがりなのに、なんで追い込み型の練習が好きなんだろうなぁ」と自問するうちに気がつきました。

テンションMAXで突っ走ってる人に向かって「疲れたら休め」とか言ったところで、多分ほとんど聞こえてません。体が弱くてすぐ気分が悪くなってしまう人とは別の危険があると思っています。

こういうタイプを休ませたいときに、正攻法の説得をしてもまず効きません。「あなたの体が心配なのよ」も割とダメ。経験上、機械的に事実を突きつけるのが一番手っ取り早いです。

自転車競技などの人がよく使う心肺センサーを使って、体調を数値化するのはどうでしょうね。脈が乱高下するようならピーピー警報を鳴らすとか。

学校の体育のように体力差が激しい集団では、注意対象が早い段階で可視化されて良いのではないかと思います。体力ある人も、具体的な数字を追うことで自分の体調変化を自覚しやすくなる効果が期待出来ますし。

一般に、運動しない人はする人の気持ちが判らないし、する人はしない人の気持ちが判りません。運動に関する健康問題で話が噛み合わないのは、この辺も一因だと思っています。

長年 熱中症に関する報道を見ていますが、「自分から好んで炎天下に飛び出してしまう人をどう説得するか」という趣旨の意見を見たことがありません。この手の運動好きへの対応は、恐らく虚弱体質の人を救済するのとは別の議論が必要です。

運動好きの一市民として是非ここにもスポットを当てて頂きたいと思っているので、問題提起に置いときます。

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