浜町で開催された「てんコロ.学会2019~きょう子の部屋へようこそ~」に行ってきました。
内容的には気象テーマのライトニングトークセッションです。
てんコロ.は気象予報士講座などを開講している会社なので、受講者でもないのに行っていいのかな~と一瞬迷ったのですが、申し込みページ見て即ポチ。なにせ登壇者の面々が、気象ファンなら変な声が出るレベルの豪華メンバーだったので。
てんコロ.学会 概要
空と笑いと酒に満ちあふれた、7時間超の大ボリュームイベントでした。イベントの柱はこんな感じ。
きょう子の部屋とはなんぞやって感じですが、運営の恭子さんと登壇者による徹子の部屋的な対談コーナーです。スタジオ脇にそれらしい応接セットまで組んであって超ウケる。
ライトニングトークに対する質疑応答は設けられてなかったものの、主催の皆さんが適切なキーワードを拾って下さるんで結果的にFAQとして機能してました。この手のイベントとしてはちょっと新しい手法かも知れません。
書いてて気付きましたが、発表ごとにパネルディスカッションが挟まる贅沢な構成とも言えますね。
学会発表・記者会見
スライド掲載許可を取らなかったので写真ほとんど撮ってないです。
記憶をたよりに自分用の備忘録として書いているので、演題あやふや&内容ざっくり&敬称略で失礼します。
三隅良平(防災科学技術研究所・雨雲研究者)
東京スカイツリーにおけるエアロゾルおよび雲粒の長期データ観測について。
雲は太陽光をよく反射することから、雲の発生がコントロールできるようになると地球温暖化対策になるかも…という話が興味を引きました。
斉田季実治(気象キャスター)
名物キャスターによる防災ガイダンス。気象予報士の中には防災士資格を持った方が多いですね。気象災害を食い止めたいという気概を感じます。
速報と詳報を使い分けつつ、足りない情報は自分から取りに行く。そうしたリテラシーを養うために日々の天気予報を活用して欲しいという内容でした。
「天気予報 is 科学報道」という視点は、数年前に気象庁で行われた公開シンポジウムでも感じました。確かに日常で最も身近な防災窓口はお天気キャスターの皆さんだったりしますね。
片岡龍峰(国立極地研究所・オーロラ研究者)
京都で観測されたオーロラのお話。
京都でオーロラが見えた…と言っても何百年も前の話なんですが、古文書の記述が史実だったことを突き止めたものです。報道された当時「文理の垣根を越えたすごい研究」として話題を呼びました。
『明月記』と『宋史』の記述から、平安・鎌倉時代における連発巨大磁気嵐の発生パターンを解明│研究成果│国立極地研究所
あと、オーロラ観測ツアーに参加する際のコツ(?)が面白かったです。
古文書を現代科学の目で検証するという研究は、このオーロラ検証の他にも知られています。たとえば江戸時代の本草書からクジラとフジツボの関係を解析した研究も数年前に話題となりました。科学論文なのにイントロからいきなり古事記が引用されてて(Ono, 712)とか書いてあって違和感がすごい。(笑)
クロスジャンルの研究手法はめっちゃ面白いので今後も続いて欲しいです。
村田健史(NICT・情報通信研究者)
ひまわり8号リアルタイムWebの構築&運用こぼれ話。のっけから「気象には全く興味がない」と断言されており、むしろ清々しいです。
海外からのアクセスに対応して各国語版を用意したり、負荷分散のためのシステム構築を進めているとのこと。…っていうか、その予算は一体どこから出てるんでしょうか。(聞きそびれた)
ひまわり8号リアルタイムWebは私も好きでちょくちょく覗いてます。実は4年くらい前に「いつの間にか新機能っぽいの実装されてるー」というような話をしたら、村田さんご本人から「昨日アップグレードしました」とのコメントを頂いたことがあります。ユーザの反応めっちゃ見られてるし、それがUI/UXに反映されてるんだと思いました。
荒木健太郎(気象庁気象研究所・雲研究者)
酔っ払ってる方のアラケン先生です。マイクロ波放射計による観測と大気熱力学場推定手法について。
難しすぎてなに言ってんのか全然わかんねぇな!と思いましたが、マイクロ波領域を観測すると(電子レンジにおける共振の逆原理により)水蒸気などの間接状況が取れるので、積分することで(観測方向に対する)鉛直方向の大気塊の性質が判る…という理解でよろしいでしょうか。
ちなみに受信専用なので、電波法の規制はかからないとのことです。
休憩時間にご挨拶に伺ったところ「めっちゃ久しぶりですね!」と言われたのですが、当日は登壇者にも酒が振る舞われる予感がしたものですから勇姿を拝見しに参りました。ビンゴです。
みなさん、アラケン先生の雲トークは酒が入ってからが本番ですよ!
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櫻井信太郎(映画監督)
中盤のゲストは、気象とは直接関係ないお仕事をされてる皆さんでした。
櫻井監督の演題は、映画撮影に切り離せない「天気待ち」の話です。荒天で撮影が流れると大損害が出るし、中途半端に晴れると露出合わせやシーン繋ぎに神経を使う。特に助監督時代は天気のことで頭がいっぱいだったと言います。
言われてみれば、天候に左右されるお仕事は多いですね。思いがけず気象の話題に着地したので、めっちゃ盛り上がりました。
坂本まな(靴下デザイナー)
アパレル業界からは、気温の長期予報と売上げの相関について。やはり当初予想が崩れると出足に響くので取引先とのやりとりに気を揉むのだとか。
また、小ロット生産で在庫管理を効率化するときのノウハウが興味深かったです。今回は『てんコロ.学会オリジナル靴下』を制作するにあたっての苦労話だったのですが、とりもなおさず最近良く見るキャラ靴下の流通裏話そのものでした。
あとアラケン先生から「デザインされた虹の絵は副虹ということで宜しいか」と確認が入ったのがハイライトです。内側が赤の虹を副虹と表現するところに愛を感じますね!(⊙ω⊙)
小沢かな(漫画家・イラストレーター)
気象官が主人公の漫画、『BLUE MOMENT』の舞台裏です。気象テーマの作品とあって雨の描写にこだわっていること、表紙の青を出すのに苦労したというお話でした。
実はわたくしフィクションに出てくる星空や月の描写が科学的に正しいかどうか気にしながら読む癖があって、「その時間なら半月の向きが逆です」とか連絡しちゃう面倒な読者なんですけど、BLUE MOMENTは場面ごとの風や雨脚の変化が判るので芸が細かいなーと思っていました。わざわざ編集部に言うのは推理ものなどストーリーに影響が出る場合だけなので、少女漫画に出てくる日食みたいな三日月にクレーム入れたりはしません。
「言われなくても知ってたもんね」という自慢ではなくて、細かいところを気にする読者ってどのジャンルにも結構います。さっきの副虹の話も構造的には全く同じですし、本作の気象描写に感銘を受けている読者は他にもたくさんいると思いますよ。
それと小沢先生のネイルが空色のグラデーションでめっちゃかわいかったです。
BLUE MOMENT ブルーモーメント/ 小沢 かな (著), 荒木 健太郎 (監修) |
表紙の青、特色にするか打診されて結局シアンに水色足したそうです。贅沢品質!
綾塚祐二(天空博物館管理人)
近年、すっかり春の風物詩となった花粉光環の発見秘話。綾塚さんは独立発見者の一人です。
天空博物館は大気光象に関する資料がほとんどなかった頃から網羅的に書かれた貴重な日本語ドキュメントで、当サイトも天空博物館の考察には大変お世話になってきました。
…というか、Twitterで綾塚さんのハロ解説が回ってくるたびに「この人ほんと詳しいよなー」とかアホな感想を抱いてたのですが、このたび中の人だと知って撃沈しています。スライディング土下座の勢いで謝ってきました。ほんと申し訳ない…。
隈健一(元気象庁気象研究所所長)
自己紹介の際に出た「元気な象の省庁」が、この日一番の歓声でございました。元気なぞうのくまさんのお話。
縦3mの巨大スクリーンに映し出された地球のサーモグラフ動画が圧巻でした。一日を1秒足らずに縮めたのが数年分まとまってて、「あの異常気象のとき地球全体ではこうなってた」がわかる構成。
冒頭で動画の詳細を聞き逃してしまったのですが、温度の流れがジェット気流に準じているように見えたので対流圏の気温データということで良いのかな。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)で海水温の似たような経年変化動画を見たことがあるので、同じ時系列で流したら絶対に面白いやつだと思いました。黒潮大蛇行が出てるときに海と空の研究者を両方連れてきて 殴り合い もとい解説して頂きたいです。
猪上淳(国立極地研究所・極地気象研究者)
ラジオゾンデに代わるドローンの可能性あれこれ。
近年の世界的なヘリウム不足と環境負荷への配慮を受けて、ドローンで代替できないか試行錯誤しているというお話。都心はドローンの飛行規制が厳しいので、まずは北海道などで実績を積んでいくそうです。
導入を検討している機体が1200万するそうでビビりましたが、山岳用ドローンは上空でもプロペラに着氷しない仕組みを備えているとか。確かに温度差や気圧差で電池特性も全然違ってきますね。
あと洋上でドローン飛ばすときは旗国法に従って日本の法律が適用されるようなのですが、極域だと「夜間飛行禁止」をどう解釈したものかで交渉中とのこと。
グローバル まじグローバル グローバル(語彙力)
小林ゆい(東北大学・吹雪研研究者)
低コストな吹雪観測システムを開発するに至った経緯と、開発苦労話について。
登壇者最年少ながら研究歴は長く、試作機も原理的には十分な品質を得られてるようです。現状で1台100万円ほどする吹雪計測器の価格を5万円まで下げて各地に配備したいとのこと。
目下の悩みは過酷な環境で観測用レーザーの光軸がずれることとか。
実用化に向けていくつか質問したかったのですが、人の列がいつまで経っても途切れないので話しかけるの諦めて帰ってきました。すごい注目度でした。
茂木美紀(JAMSTEC・熱帯気象研究者)
飛行船を用いた台風内部探査の可能性について。
小型飛行船に気象用の計器を積んで飛ばしたら台風にたまたま取り込まれてしまったので、「いっそのこと台風の内部探査に」と舵を切り直した研究だそうです。この手の「タダでは転んでやらない話」は大好き。
ただ、こちらもヘリウム不足のあおりを受けて資材確保が難しくなってるようです。
一般に大気中のヘリウムを分離するのはコスパが悪いことになってますが、冷却剤として使う必要が無ければ少量生産も不可能じゃない気がするけどダメなんですかね。温泉から分離するとか。
茂木耕作(JAMSTEC・気象楽者)
平成30年7月豪雨(いわゆる西日本豪雨)の発生メカニズムについて。
大雨の原因となった梅雨前線の南下をデータから読み解いたもの。気象学会でこの報告をしたところ、次の発表者も全く同じテーマだったとか。テーマが被ったことそのものよりも、違う解析手法で同じ結論に達したのが素敵です。
微分法のニュートンとライプニッツとか、エネルギー保存則のジュールとマイヤーとヘルムホルツとか、科学における同時期発見ネタは枚挙にいとまがないのですが、独立的に違う手法で同じ結論に到達したところに物理モデルとしての確かさを感じます。
最前線の先生方からすると研究テーマのネタかぶりは死活問題だったりするのですが、同時に科学的な確度が高まったことを意味します。素人としては、こういう話を聞くとゾクゾクしますね。
おわりに
実験コーナーもすごく質が高くて、反射板を使ったハロの再現実験とかドライアイスを使ったダイヤモンドダストの実験やってました。一行でペロッと済ませてしまうのが申し訳ないくらい。
それとごはん美味しかったです。サイエンスカフェで美味しいごはん大事。めっちゃ大事。ごちそうさまでした。
あと全体的に「孤独なヒーロー感」がすごかったです。確かに気象のお仕事って地球防衛軍っぽいんですよね。
ただ、いくらヒーローが孤独だろうとC級の無免ライダーが人知れずその実力を訴えていたりするわけで、皆さんのご活躍はB卒の無名ライターが人知れず見守っちゃうyo☆
…という感じのご報告でございました。
ワンパンマン |
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