ビスマスの結晶作りは超大変!魅惑の虹色キューブが出来るまで

「最も美しい金属結晶」ビスマスの人工結晶づくりワークショップに参加した感想と注意点、発色の仕組みについてまとめました。

ビスマスの結晶作りは超大変!魅惑の虹色キューブが出来るまで

皆さんビスマスはお好きですか?(・∀・)

ビスマスとは、幾何学的な形と虹色の光沢が魅力の金属です。大きな結晶は観賞価値も高く人気があります。今回、ビスマスの人工結晶づくりを観察できるサイエンスワークショップ『結晶のすがた』が開かれるというので行ってきました。

講師は結晶写真の第一人者、山猫だぶ先生です。

ビスマスとビスマスの人工結晶

ビスマスとは、原子番号83である元素です。平たく言うと金属の一種。

特定条件で作られた結晶塊が虹色に輝くことから、一部界隈で高い人気を誇ります。ミュージアムショップ等でなかなか良いお値段の標本を見かけますね。

時たま不勉強なメディアが「世界で一番綺麗な天然鉱石」などと書いてたりしますが、鉱山掘ったら出てくるようなものではなく職人さんの手作りです。

純度の高い金属は時として結晶構造を作ることがあります。しかし人為的に最適な環境を作ってやらないと観賞価値の高い結晶はなかなか出来ないようです。ビスマス結晶が「人工結晶」と呼ばれるゆえんです。

「結晶のすがた」みどころ

2時間にわたるワークショップ「結晶のすがた」は、ビスマスと方解石ふたつの観点から結晶構造を知るイベントでした。ざっくり言うとこんな感じ。

  • ビスマス結晶化の実演をひたすら眺める
  • 山積みの方解石を割りまくる
  • その傍らでピアノ生演奏会
  • 結晶を模した美味しいお茶菓子

あらためて思い返すとフリーダムな構成でしたね。

ビスマス結晶の作りかた

ビスマス結晶づくりの手順は以下の通りです。使う道具は至ってシンプル。

ビスマス結晶作りの装備

  • ビスマスの地金
  • コンロ
  • やっとこなどの工具

まず鍋にビスマスの地金を溶かします。

このミルクパンは直径15cm程度の小鍋なのですが、溶かす分量は10Kgほどになるとのこと。奥にある地金が5Kgもあります。500mlペットボトルくらいのサイズなんですけどね。ビスマスがいかに重い金属であるかがわかります。

ビスマスはいわゆるレアメタルです。2014/09/07現在で地金価格がキロあたり6千円。今回の使用量は10㎏ですから、博物館などで売られているビスマス結晶の原価率が脳裏をかすめて一瞬動きが止まりましたよね。

ビスマス結晶の作業手順

ビスマス結晶の作成手順
ビスマス人工結晶の育て方は、作る人によって細かく手法が異なるようです。ここでは以下の手順で行われました。

  • ビスマス地金を溶かす
  • 加熱を止めて冷やす
  • 表面が固まったら鍋から取り出す
  • 工具で割って中身を確認

溶けたビスマスは、冷える過程でかなり収縮するようです。冷えたビスマス塊を割るとかなり大きな空洞ができていました。

一般に、結晶を大きく育てるコツはゆっくり冷やすことです。大きな塊のまま冷やすと、その条件を満たしやすい。自然界でも、大きな結晶は岩の内側などで成長します。

いざ冷えたビスマス塊を割ると、中にはパステルブルーの空間が広がっていました。外側はありふれた金属光沢なのに、内側だけがやたらと綺麗。

ビスマスの塊

しかし肝心の結晶は惜しくも少なめでした。

技術はもちろん、運の要素が大きいとのこと。大きな結晶が育たないことも多いようです。ただ、ビスマスは再加熱すればまたやり直せるので何度でもチャレンジ出来ます(だぶ先生が)。

薄膜干渉による構造色のしくみ

ビスマスの再実験を待つ間に、もう一つの柱である方解石の石割りコーナーを見てました。

方解石の結晶構造

方解石とは、大理石の親戚です(…というか、方解石の一部が大理石)。

方解石

よく教科書にこんな感じで載ってるのが方解石です。何となく見た記憶がある人もいるんじゃないでしょうか。

特徴的な結晶構造により、力を掛けると特定の方向に割れる性質があります。劈開へきかいと言います。

木目もくめならぬ石の目にクリーンヒットすると、パカっと割れるんですよ。鈍器で殴打するの楽しい。無心に割ってしまいます。

方解石の干渉虹
方解石の干渉虹

よく見ると、無色透明であるはずの方解石に淡い虹色が浮き出てます。劈開を持つ方解石の性質により、薄膜干渉と呼ばれる現象が起きてます。この薄膜干渉が、干渉虹と呼ばれる虹色を作り出してる。

薄膜干渉と干渉虹

一方、ビスマスの虹色も薄膜干渉による干渉虹です。

ビスマスは結晶化するときに酸素と反応して表面に薄い膜を作ります。その膜に光が当たるとシャボン玉のような虹色が現れる。

干渉虹と波長の説明

膜の表面と深部をはね返った光が互いに干渉しあって不思議な波(この場合は虹色)を作ります。

ビスマスに関する説明の中で、「膜の構造によって色が変わる=色を見れば膜の状態が判別できる」というお話がありました。実際、干渉虹を見て膜の厚さが何ミクロンなのか目星のつく人が時々います。完全に超能力だと思います。

また、方解石の虹色を見てシャボン玉に似てると思った人は素晴らしい。原理的には一緒です。

【追記:2015/11/10】厳密な波長合わせはしてませんが、薄膜干渉による干渉虹をシミュレートしてみました。

薄膜構造による干渉色チャート
薄膜干渉の構造色シミュレーション

いわゆるレインボーカラーとは違う虹色ですが、シャボン玉にせよビスマスにせよ薄膜干渉が作る虹色はこの色順になります。

方解石とビスマス。石と金属で全く関係ないテーマに見せかけて、どちらも薄膜構造を持つ結晶つながりでした。

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虫の干渉色は複膜構造により色が強調されるようです。

ビスマスの被膜をはがすとどうなる?

表面の酸化被膜が色を作ってるなら、その酸化被膜をはがすとどうなるの?

もちろん虹色は消えちゃいます。

大きなビスマス結晶

展示されていたビスマスの中に、銀ピカの結晶がありました。

この銀色結晶は、虹色結晶を作ったあとにわざわざ表面を酸で洗い流したのだそうです。表面の薄皮一枚でずいぶん見た目の印象が変わりますよね。

…っていうか、こんなに大きな結晶の膜を剥がすとか贅沢すぎて意味が分かりません。一緒に写ってる名詞と比較してみてください。一般によく見るビスマス結晶の多くは3cm以下くらいなので、かなりのサイズだと思うのですが。

石華工匠とは、この結晶を作った方の屋号です。日本におけるビスマス人工結晶のトップメーカー。

ビスマス結晶&その他の展示

そうこうするうちにビスマス結晶実験の第二弾が始まりました。

ビスマス結晶の作成手順

溶かして冷やして割ったところ、再び広大な空間が現れましたよね。

えーと、三度目の挑戦へ続く…。(;・∀・)

リアル元素周期表

その他の展示もチェックします。

壁面に飾られてて目を引いたのは、リアル元素周期表。もちろん83番にはビスマスの人工結晶が展示されてます。

リアル周期表

このリアル周期表は去年のサイエンスアゴラ(科学技術振興機構主催のサイエンスコミュニケーションイベント)でだぶ先生が出展したものですが、予定があって見に行けなかったので嬉しい驚きでした。

見ての通り放射性元素に関しては空席なんですけど、まさかの92番が埋まってましたよね…。

(((( ;゚Д゚))){uranium

驚いたと言えば、このとき核物理学の野尻-猫-美保子先生をお見掛けしました。

野尻先生とKEK一般公開のノベルティ

もう少しで野尻先生のおられる つくば高エネ研(KEK)一般公開がありますね。ご挨拶したら棚ぼた的にノベルティ見せてもろたし、ちょろっとヒッグス粒子のお話も伺いました。

ノベルティ超絶カワイイし、物理勢はつくばへGOだよ…。(´∀`*)

ビスマス結晶実演part3

いよいよビスマス実演の第3弾です。

ビスマス結晶の作成手順

溶かして冷やして割ってみた。残念ながら状況はあまり変わらないようです。

とにかく重くて熱いので、安全第一とのこと。作業スペースはかなり広く取ってました。会場には小さな子供たちも多く、ひっくり返したら大変ですもんね。

結晶構造とバッハ

ほどよく会が進行したところで、だぶ家・ねぼすけさんによるピアノ演奏が始まりました。演目はバッハの平均律クラヴィアです。

サイエンスカフェでピアノ演奏?と言うなかれ。結晶とバッハにはただならぬ繋がりがあります。

バッハの平均律クラヴィアは、短いフレーズが何度も繰り返されて独特の雰囲気を作っている楽曲です。個人的にバッハはヨーヨーマでちょろっと聞く程度なので弦楽器の印象が強いんですけど、ピアノで聞くとずいぶん印象が違います。

バッハの繰り返し構造は、モチーフとしてフラクタル図形に似ていると思っていました。しかし打弦楽器としてのピアノで聞くと、塊で積み上がるタイリングパターンに近いような気がします。

フラクタル幾何学(上) (ちくま学芸文庫)

いずれにせよ、幾何学を連想させるバッハの楽曲が結晶テーマのサイエンスカフェで生演奏されてるわけです。

こーれーはーヤバい!

手塚治虫クラシック音楽館

かの手塚治虫も、「ルードウィヒ・B」にてバッハ平均律クラヴィアの対位法を「組み上がったブロックのような構造物」と例えていました。

こう言うのも共感覚の一種なのかもしれません。

さまざまな金属結晶

結晶を作る金属はビスマスだけではありません。お馴染みの金やプラチナも結晶構造をつくります。

プラチナの結晶
だぶ作品を知る人には有名な(?)プラチナの元標本

会場には、これまでに撮影された繊細な結晶の写真があちこちに飾られていました。5mm角程度の小結晶なのに、壮大なスケール感で映っていて驚かされます。

よくわかる元素図鑑
左巻 健男 , 田中 陵二(=だぶ先生)【楽天】
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著作権的なアレにより書影で引用。

左上に写っている金や右中央の銅が展示されてた写真と同じものです。

だぶ先生の写真は随所で使われてるので、サイエンス好きの人ならどこかで見てるかもしれないですね。

美しい元素【楽天】 / 【Amazon】

この図鑑は、科学に親しみのないご家庭にも勧めやすい驚きの500円台。ムックだけど割と読み応えあります。

ビスマス観察会まとめ

そんなわけで、巷で人気のビスマス金融作業をたっぷり見て参りました。

溶かして冷やせば簡単に量産できると思ってたら、全然そんなことないんですね。物質の挙動を知り尽くしてる結晶の専門家が作業しても失敗が多いというのが一番の驚きでした。

でも、お土産として指先大のビスマス結晶を貰ってしまい 完全に参加費の元が取れたぜヒャッハー 恐縮の極みでしたね…。お土産ビスマスは石華工匠さんとだぶ先生の共作とのこと。事前に作り貯めてくださったようです。

ビスマス結晶とフィボナッチ数列

嬉しくて色んな角度から眺めてたら、あちこちにフィボナッチ数列っぽいものを見つけました。でも13くらいで挙動が変わるのなぜでしょうね?

帰り際、かつて半導体の製造歩留まりが非常に悪かったという話を思い出しました。半導体の場合は意図的に不純物を導入することで飛躍的に反応が安定したのですが、ビスマスにもそういうのがあれば良いのにね。

とりあえず、難しいことは良くわかんないけど結晶眺めてるのは楽しかったです。

結晶クッキー

最後にサイエンスカフェの「カフェ」部分では、結晶を模したクッキーが配られました。イベントのフライヤーも微妙にビスマスっぽいレイアウトだったし、とても丁寧な会で楽しめました。

ビスマス人工結晶 石華工匠

【 更新履歴等 】

2015/11/10 判りにくいのでタイトル変えました。旧題:『金融工作の知られざる実態←ビスマス結晶観察会に行ってきたよ!』
2017/07/31 読みやすいように章を組み替えました。