お天気キャスターはサイエンスコミュニケーターであるという発見

気象予報士の寺川奈津美さんと斉田季実治さんのエピソードから、天気予報も科学報道なんだと発見した話。

お天気キャスターはサイエンスコミュニケーターであるという発見

気象庁で行われた公開シンポジウム「関東の大雪に備える」のうち、気象研究官の荒木健太郎さんと気象キャスター寺川奈津美さんの講義が特に印象深かったので備忘録を置いときます。

「天気を伝える」という取り組みを「気象を通じたサイエンスコミュニケーション」という文脈で整理すると、非常に考えさせられる内容だったという聴講メモです。

イベント全体の感想は下記リンクからどうぞ。
大雪警報が新基準に!都会特有の雪害事例から関東の大雪に備える

お天気キャスター is サイエンスコミュニケーター

気象キャスター寺川奈津美さんの体験談を聴いているうち、頭に浮かんできたのが「気象予報士はサイエンスコミュニケーターだ」というフレーズでした。

サイエンスコミュニケーターとは、ざっくり言うと科学館などで展示を解説したりワークショップで科学の仕組みを教えてくれる「科学の伝道師」みたいな人のことです。

寺川奈津美さんはお茶の間に天気を伝える「お天気おねえさん」として知られてますが、刻々と変わる天気図を読みとく気象予報士としての顔も持ってます(…というか、ご本人的にはおそらく予報士がメイン)。

一般に「気象予報士」と「お天気キャスター」は混同されがちですが、違う性質の職業としてここでは明確に区別したい。そして、二つの性質は両輪揃って初めて機能するものだと思ったのです。

予測の難しい気圧配置が来れば専門家の間でも意見が割れる。そこで錯綜するデータをどうインプットするかが気象予報士の、あいまいな予測を誠実にアウトプットする技術がキャスターとしての見せ場なのでしょう。

寺川キャスターが伝える「気象予報士としての心構え」は、新発見の科学ニュースと向き合って市民に伝えるサイエンスコミュニケーターの姿勢そのものに見えました。

ラボの先輩や学科の同期が気象予報士の資格を持ってるので、専門性の高さはそれなりに判ってるつもりでしたが、全く理解が足りてないと知った2016冬って感じでしたよね。

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる / 寺川奈津美

気象予報士・斉田季実治さんの人気のひみつ

そして寺川さんの講演で紹介された気象予報士、斉田季実治(さいたきみはる)さんのエピソードも素晴らしすぎた。

斉田キャスターは落ちついた雰囲気の中にコミカルな表情も持つ、親しみやすいキャラクターが人気です。

しかし気象災害時には一転してシリアスモードに。そして普段の気さくなイメージとシリアスなときの格差がそのまま「非常事態」という強いメッセージに変わるというのです。

言われてみれば全くその通りなんですが、これもまた情報を伝える上で言語化しておきたい要素だと思いました。斉田さんの場合は防災士としての側面もありますし、説得力の上積みが何倍にもなりますね。


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市民参加型の科学 Citizen Science

雪の結晶

荒木先生の講演のなかで聴衆の反応が高かったのは、「市民参加型の科学 Citizen Science」というキーワードでした。

この話の前提となったのは、関東で54年ぶりとなる今年11月の降雪です。その際に荒木先生が雪結晶の写真提供を市民に呼びかけたところ、関東一円から5000枚もの写真が集まったそうです。

「雪は天から送られてきた差出人不明の手紙」

「雪は天から送られてきた手紙」とは、物理学者・中谷宇吉郎先生の有名な一節ですね。荒木先生はこれをもじって「雪は天から送られてきた差出人不明の手紙」と言ってます。

中谷宇吉郎博士の名言は科学に裏打ちされた真理

『雪の結晶は天から送られた手紙である』は比喩じゃないからね

気象条件によって刻一刻と姿を変える雪の結晶は、まさに上空の物理状態を写し取った記録そのものです。しかし実際のところ自然条件下における氷晶データはまとまった情報がないのだとか。

そこで荒木先生がTwitterで雪の結晶写真を募ったところ、非常に多くのデータが得られた。フィールド系の学問ではたびたび見られる手法ですが、気象分野ではほぼ初の試みとのことで、市民参加の可能性を強く感じると興奮気味に語っていました。

シティズンサイエンスは万能なのか

その一方で、一般市民が投稿した情報はサンプリング状況が判らない写真も少なくありません。もちろん精度良く撮影された写真も沢山ありましたが、TwitterなどのSNSを利用すれば騒ぎに乗じたノイズも増えます。

正直なところ「各地の大学や博物館などに依頼した方がずっと情報精度が高いのでは?」と思ってしまったのですが、どうやらサンプリングだけが目的ではなかったと判ったのが後半のハイライト。

このお祭り騒ぎに参加した人は今後も雪や空を観察するかも知れない。その結果気象学を身近に感じたり科学リテラシーが向上することもあるだろう。そんな願いも込められていたようです。

(⊙Д⊙)

ヤバい。全力で謝りたい。

何かの道に入門するきっかけとして、めちゃくちゃ合理的でハッピーな方法じゃないですか。そうだよね、科学って一部の人だけのものじゃないんですよね。

私だって科学に親しんだきっかけは空を眺めることだったのにね。はー、定期的に初心に戻ろう。(´;ω;`)

そんなわけで、気象キャスターお二人のエピソードを含め「人に情報を伝えることの意味」について非常に学ぶことの多かったというログでした!

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