占星術(星うらない)はウソか科学か元天文部員が考えてみた

星占いはウソなんでしょうか?かつて天文学者と占星術師はほとんど同じ意味を持っていました。実際、天体の性質は神話によく表れてます。両者の関係について考察してみました。

占星術(星うらない)はウソか科学か元天文部員が考えてみた

長年の天文ファンとして、雑誌の後ろについてるような星占いが苦手です。

占い肯定派が曰く「占星術は科学として扱われていたのだから、惑星の運行に基づいた占いは科学だ!」と叫んでたりしますが、それでは明快な根拠になりません。包含関係がおかしい。

ただ、占いが全く非科学的かと言ったら一概に否定できないとも思ってます。占星術の歴史や神話の世界をひもとくと、所々に天文学的な事実と一致している表現が見られるからです。

占いがカウンセリングに近いものだと考えたとき、惑星の動きから将来を予言することは出来なくてもライフスタイルのアドバイスをすることはそれなりに可能だったのではないでしょうか。だとすれば、中世の天文学者が占星術師でもあった話は十分な合理性があっただろうとも思うのです。

天体の動きはカレンダーそのもの

国立天文台の重要な職務の一つに暦の計算があります。星の動きとはカレンダーそのものであり、その観測は100%近代科学の領域に含まれると言って異論はないでしょう。

歴史的に見て、多くの文化において天文研究は重視されてきました。一年の長さを正確に知ることは安定した農業税収を得ることとほぼ同義であり、国の運営を安定して行う上で最優先すべき課題だからです。

恒星は一年の移ろいを知る良い目安

古代エジプトでシリウスの動きを農作業の目安としたように、古くから星の動きと人の暮らしは密接に繋がっています。

印刷されたカレンダーが流通してなかった時代、気温に頼らず季節の変化を知るには星の動きを知ることが何よりも大きな意味を持ったでしょう。

惑星は長期計画を立てるときの良い目安

例えば惑星は一年を通じてフラフラとおかしな動きを見せますが、それでいて木星や土星などは長期的に見るとそれなりに周期性のある動きをします。

例えば夜空の同じ時間・同じ場所に見える周期は、木星の場合で約12年、土星の場合は約30年です。人生計画を立てる長期リマインダーとして、この二つの星を観察するのはなかなか使い勝手の良い目安となるのではないでしょうか。

西洋占星術で用いられているホロスコープなども、この考え方と非常に親和性が高いように思います。

神話は天体を擬人化したもの

またギリシャ神話やローマ神話に伝わる星々の神様は、天文学的な星の性質をよく言い表しています。現代的に言い換えれば擬人化という表現がしっくり来ます。

土星の守護神サターンの性格

たとえば土星は英語でサターンです。

もしかすると死神の印象があるかも知れません。しかし土星の守護神であるローマ神話のサートゥルヌス(=サターン)は農業の神様であって、悪魔サタンとは別の存在と言うことになってます。

そのローマの農業神サートゥルヌスですが、ギリシア神話だと農業神クロノスに読み替えて同一人物(柱?)として扱います。ついでに言うと、この農業神クロノスは、時間神クロノスと間違われることがとても多い。

悪魔サタン ≠ 農業神サターン(G) = 農業神クロノス(R) ≠ 時間神クロノス

このような紛らわしい経緯により、しばしばサターンは悪魔や時間神と混同されてきました。

農業神サターン
【左:Polidoro da Caravaggio サートゥルヌス(PD)】【右:Ivan Akimov / キューピッドの翼を刈るサターン(PD)】

農業の神様がなんで鎌なんか持ってるかというと当然「収穫」するからで、実際、土星を示す天文記号はこの鎌の形からきています。ただ、農業は命を育むと同時に命を刈り取る行為でもあり、時間の概念とも切り離すことが出来ません。その点で悪魔や時間神と混同されていった…というより、それぞれの二面性なのだと言えます。

土星の天文学的性質

そんな土星が空を一周するのに要する期間は約30年弱です。

20世紀の中頃まで、人の寿命は「60歳まで生きればまぁまぁ」という感じでした。中世以前では30代で死亡するケースも少なくなかったことを考えると、「生まれたときから数えて土星がぐるっと戻って来たら天命」という意識があってもおかしくなさそうです。
図録▽平均寿命の歴史的推移(日本と主要国)

つまり30年で天を一巡する土星が「世代交代を思わせる性質」を持つのは、擬人化として悪くない設定だと思うのです。

中国における土星の古名を「鎮星」と言い、死や転生を意味しているのも興味深い一致です。

惑星の天文学的性質と占星学的な意味

他にも、天文学的な性質と占星術における意味の類似性は随所に見られます。

「星の動きを人生設計に役立てる」という観点から、惑星の動きをもう少し細かく見ていきましょう。

木星の天文学的な性質と占星学的な意味

木星が空をぐるりと一周する周期は約12年だと言いました。つまり黄道12星座を1年で一つぶん移動します。

木星の運行

木星が今どの星座にいるかを見れば、簡単に年の経過がわかります。同様に、数年後の計画を立てるときは「木星が何座に入るまで」と表せる。

占星術で使うホロスコープは、数学的に言うと「時系列を折り込んだ極座標」と表現することも出来るわけです。

取り立てて明るい星を持たない蟹座や天秤座を重用しているのも、天体の動きに名前(=所在地)を与えているに過ぎません。

ちなみに中国において木星の古名を「歳星」といいますが、その理由も干支や暦法にちなんで名付けられたのだと言われています。

金星の天文学的な性質と占星学的な意味

一般的に言う「一番星」とは金星のことです。宵や明けの薄暗い時間にとても明るく光ります。

スケジューラーとしての機能は特にないのですが、朝夕を見守っているという点で家庭的な意味を持つでしょう。その金星を司るのは愛の女神ビーナスです。

水星の天文学的な性質と占星学的な意味

太陽から最も近い場所を回っているのが水星です。つまり常に太陽の近くに位置しています。

天文ファンには比較的馴染みがありますが、一般にはあまり知られていないかも知れません。それもそのはず、太陽が地平線に隠れている夜明け前と日没後のわずかな時間しか見えません。東に西にせわしなく動くので、気をつけていないと簡単に見逃してしまいます。

この星をよく見るのは「夜明け前から起きていて日没まで外の作業をしている働き者、しかも大変注意深い人」と言うことになります。

実際、水星を司るメルクリウスは神話でも特に足が速い神様として描かれてます。そしてメルクリウスが守護するのは、商人や職人など「朝早くから起きてせわしなく動く職業」ばかりだったりします。

火星の天文学的な性質と占星学的な意味

お隣の星でありながら、地球とすれ違うのに要する期間が最長となるのが火星です。その周期は約2年。中期プロジェクトの伴走者という意味を持つでしょうか。

明るくなったり暗くなったり、あっち行ったりこっち行ったり、すごく不思議な動きをします。守護してるのも仕事を司る軍神マルスですしね。人生楽ありゃ苦もあるさ。

星の動きから未来を予測することは可能なのか

占いが担うべき二大要素は現状把握と未来予測です。

占いが持つ科学的要素

前半部分は言ってみればカウンセリングと同じもの。別に怪しい行為じゃありません。十分科学的に扱える分野です。

だったら後者はどうでしょう。「星の動きから未来予測」することは科学的に可能でしょうか?たとえば星の動きから「何月何日に事故が起きるか」を予言するような。

一見すると相関関係などなさそうに見えますが、たとえば海に行く人に「その日は満月だから潮の満ち干に気をつけなさい」と言うのは科学的なアドバイスになりえます。

しかし仕組みを知らない人には、仕組みを説明することが出来ません。

願いを叶えるには計画を立てることから

また叶えたい願いがあるときは、目標を忘れないことが何よりも大切です。スケジュール帳などない時代、中長期リマインダーとして機能する何かと言えば、やはり星の動きを利用するのが最適でしょう。

年齢ごとのライフステージの変化は、文化ごとに大体決まっています。もちろん一部の天才は時代を切り拓いたかも知れませんが、一般庶民のライフスタイルにそれほどの自由度はないでしょう。

「この星が何座の領域に入るまでにこのトレーニングを積んでおきなさい」という文言にはそれなりの妥当性があったはずです。

だからこそ生年月日から割り出したホロスコープは個人の履歴書となりえたし、そのホロスコープを書くために高度な天文学の知識が必要だったはずなのです。

結局のところ占いは科学なのかウソなのか

私個人の意見を言えば「星占いは相応に科学だった」と考えています。ただし、これは過去形です。

年齢と職業が決まれば ほぼ完全に人生の先が見えるような社会では、星占いの的中率はかなりのものだったに違いありません。多様性のない社会では、人の一生でさえ再現性があるように見えたでしょう。

星占いが科学かというよりも、「歴史の一時期において星の動きと人生に強い相関関係が見いだせた時代があった」というのが実情だと思います。

その意味で21世紀の日本において誕生星座で一律に『今日のあなたの運勢は』って決めつけるのはセンスがないし、科学的な要素はほとんどないです。

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