「ごね得」の裏にある「人件費はタダ」という幻想

勤め人が増えた影響か、ものの値段を素材原価だけで判断する人が増えた気がします。いっそのこと、全ての「手間賃」を可視化したら良いと思うの。

「ごね得」の裏にある「人件費はタダ」という幻想

家電量販店で仕入れ値を割らんばかりに値引き交渉したり、クレーム入れて待ち時間を繰り上げさせる人が苦手です。自分の場合、値引き対応という体裁で事実上の二重価格になってる場合や理不尽に待たされた場合は確認しますけど、あまり好戦的な態度は取りませんね。

過度なクレームは相手のリソースを削ることに繋がります。ひいては顧客へのサービス低下という形でしわ寄せが来る。もっとも、ごねる人は次から次へと新しい店に移るんでしょうけども。

「クレームつけたら、こんなに安くなった!」って自慢してる人は今すぐバナナの皮でも踏めば良いのに。

海外製品の個人輸入は本当に得なのか

私が初めてロボット掃除機ルンバを買ったのは10年以上前のことでした。当時、代理店を通して買うとエントリー機種が8万以上したと記憶してます。本場アメリカでは同じモデルが200ドル台で売られてるにもかかわらず。

当然、個人輸入で買いましたよね。多少のシッピングコストが掛かろうとも、8万の壁の前には微々たるものです。苦手な英語メールを何度かやりとりした後、待望のルンバが届きました。はやる気持ちを抑えて充電し、ドキドキしながらスイッチオン!

たら~らら~♪ …ががが…がが……が………

遠い海の向こうからやって来た電子ペットは5秒の短い生涯を終えましたよね。

正直嫌な予感はありました。製品チェックの甘いアメリカでは良くあることです。不良品交換を気軽に応じる代わり、作りっぱなしで市場に出すのです。事前に調べた際も、初期不良に触れてるレビューは複数ありましたから。

日本人の感覚だと「メーカーの製造責任ガー!」と言いたくなるところですけど これはこれで合理的なんです。AIを積んだ大型バッテリーつきのアイデア商品が200ドル台なわけですし、問題があればすぐに新しいのを送ってくれるわけですし。

ちなみにこのとき、サポセンから電話掛かってきてびびりましたよね。完全に休日モードの時に突然 Hello? とか本当やめて欲しいです。「同梱の関税に関する書類」ってどれだっけ!?せめてメールにして! Please!

もちろん日本の代理店で買えばこの手の面倒はすべて日本語で済むでしょう。しかも送られてきた代替品に再び初期不良が見つかったら…?差額の5万円は安心の保険料ですね!

iRobot Roomba 自動掃除機 ルンバ630 ロボット掃除機【Amazon】

現行機の並行輸入品だと39,800円だそうです。

値引き交渉の「勉強させて頂きます」

ところで値引きすることを俗に「勉強する」と言いますね。広く使われる割には由来がはっきりしない言葉です。

ぐぐると「値引きに耐えられるように流通ルートを勉強し直すこと」…という主旨の話が上の方に来ますけど、個人的には疑問があります。私は「目の肥えた客に商品知識や製品の粗を指摘されて値引くこと」の方が文字通り『客が店を育ててる』印象を受けるんですが、どうでしょう。

たとえば花屋がユリを売ってたとして

客「これクルマユリって書いてあるけどオニユリじゃない?
店「え、そうなんですか?
客「だってほら…。(かくかくしかじか)
店「なるほど、勉強になりました。お礼に安くしときますよ。

みたいな流れの方が自然だと思うのです。だから、客の方から値札だけ指さして「もっと勉強しなさいよ!」って連呼するのは ちょっと…というか何というか、いわゆる一つのアレなのでは。

ネット通販の台頭と混沌

結局、値引き交渉というマインドが性に合わない人は多いのでしょう。直接交渉しない代わりにネット通販で最安値を探す方式が登場しました。

しかし、カカクコムの最安値が一番人気かと言えばそうでもなくて。クレジットカードを使うなら三番目くらいからがお得とか、別の店だと わずかな差額で当日出荷してくれるとか、北海道と沖縄は割増し送料だったりして、色々と考えることが多いわけです。

情報強者がリーズナブルな買い物をなしえたとして、下調べに費やされた時間時給は果たして値引き額を凌駕したのか。

店頭価格のあるべき姿とは

本来、安売り量販店は値引きに応じる余力などないはずです。ならば掛け値無しの最安値にして全てのオプションを有料にしたらどうかしら。包装料○円、車まで運ぶのも○円、商品説明も時間でいくら、設置料も別料金。

だってトイレが詰まって焦って水道屋さん呼んで待ってる間に自力で直しても出張代ばっちり取られるじゃない。「何だとちくしょう!」って思うけど、仕方ないけど払うじゃない。

レジの横入りも並んでる人ひとりあたり10円渡して割り込むとか決めようよ。遊園地だってニコ動だって割り込み権利買えるじゃない。「10円じゃ足りねぇよ!」って人がいたら二人でバトルすれば良ろしいよ。

病院の待合の「自称急患」も、実はコレでいけるんじゃないですかね。医療費は一律ってことになってるし、割り込みに診療点数つけられないけど患者同士こっそり話をつける分には特に問題ないのでは。(個人の感想です)

時は金なりと言いますものね。

見えないところで損得が発生するからストレスなのであって全部お品書きにして妥当性のある額にしたら心休まる人もいそうです。支払いは電子マネーでチャリーン♪ってやれば面倒がなくて良いでしょう。もちろん、多少の面倒を引き受けてくれる定価のお店も繁盛して頂きたいです。

コミュニケーションとしての値引き交渉

一方、世には値引き交渉前提の価格設定というのもありますね。

前に見た酉の市のドキュメンタリーで印象的だったエピソードが二つあります。ひとつは熊手を買うとき「まけて」貰った価格を翌年の予算に足してって前年より大きな熊手を買っていった人の話。もうひとつは、高額の熊手を散々値切った最後に「チップね」って満額置いて言った人の話。

プラマイゼロかと思いきや、値引き額を戻すことで心理的な貸しが生まれます。年に一度のお付き合いでもこのお客さんは絶対に忘れられることがないでしょう。そもそも熊手なんか買ってる時点で、このお客さん自身も商売人なんです。値切り、値切られることで互いの腕を磨いている。

何にせようまいなぁ、と。日本の値引き交渉はコミュニケーションの一環に置かれるもので単に安けりゃいいって値引き交渉とは元より性格が違うのでしょう。

商売繁盛も最安値で買えちゃうAmazonマインド。
ちなみにお値段は360円です。

まとめ

お金って、ついモノを買ってるんだと思いがちです。でも、たとえ量産品でも相手の時間を買ってるんですよね。

もし根底にその感覚があるならば、生身の人間を湯水の如く浪費する行動は取らないはずです。あるいは、浪費を強いる者こそが浪費される側なのかも知れません。

「素直に承諾したものが損をする」というシステムへの疑問 – いつか電池が切れるまで