河童の好む尻子玉とはセンチュウ虫体の好酸球性肉芽腫とする仮説

河童の生活史を農村の変化と公衆衛生学の見地から考察する。

河童の好む尻子玉とはセンチュウ虫体の好酸球性肉芽腫とする仮説

河童は日本固有の未確認生物(UMA)である。どこか亀に似た容姿をもち、キュウリを好み、水辺に住まう。

人間に対し悪事を働かないとする説もあるが、川に入る者を溺れさせたり「尻小玉」を抜いてふぬけにさせてしまうという。

尻小玉とは、人間の肛門付近にあるとする架空の臓器である。しかし、何らかの肉腫と仮定すると多くの説明がつくのではないか。

また、ほんの数十年前まで各地で目撃例のある河童が突如として姿を消したのはどうしてなのだろう。ヒトを溺れさせて命を奪うような存在であるかについても考察したい。

河童の主食はキュウリではなかった?

キュウリ

淡水に棲む河童は、多くの淡水性生物と同様に何らかの寄生虫を保有していると考えられる。あるいは選択的な食性により、感染源がキュウリである可能性も極めて高い。(dadasiko et al., 2017)

ここで思い浮かぶのは、ある種のセンチュウ類だろう。

ただしここで一つの疑問が生じる。

生水とキュウリで複数の感染経路が存在する場合、それぞれの寄生生物は別種の可能性がある。だとすると、寄生生物から見たとき最終宿主である河童のリソースを奪い合うことになるため、両者にとって都合が悪い。

むしろ、河童はセンチュウの捕食者と考えた方が自然ではないか。これまで河童はキュウリが主食だと思われてきたが、実はそれらに付随するセンチュウを摂取しているなら、それなりのアミノ酸を補給していることになる。

河童が河川や土壌のセンチュウ類を能動的に駆除している場合、河童の個体数減少は農業生産的に見て大きな損失といえるのではないか。

河童とセンチュウの生活史

センチュウとは、線形動物門に属する生物の俗称である。体は細長くミミズのような形状で、土壌を中心に広く分布している。

中には寄生生活を送る種も知られている。回虫やギョウ虫、アニサキスが代表的な寄生種だ。

たとえばアニサキスは胃などを食い破ることで激痛を起こすと知られているが、稀に腸壁に入り込み肉芽を形成する場合がある。
【PDF】アニサキス虫体を核とした後腹膜好酸球性肉芽腫による絞拒性腸閉塞症の1例(市立吹田市民病院 中村ら 2001)

また、回虫においては分泌する毒素により腹痛、めまい、失神、けいれんなどの症状を起こすことが知られている。脳に侵入した場合は てんかん様の発作を引き起こすという。

これらの寄生虫に侵された人間が遊泳中に発作を起こした場合、「河童が溺れさせる」は完全に濡れ衣だろう。仮に「尻小玉」の正体が寄生虫による肉腫であれば、これらの重篤な病巣を切除・処分してくれる河童は命の恩人とさえいえる。

尻小玉を抜かれた人間はふぬけになってしまうというが、運良く生還しても発作を起こすまでに神経が大きく侵されてしまった場合は社会復帰が難しい

公衆衛生学の浸透と河童の個体数減少

水木しげるロードの河童

昭和前半まで断続的に言い伝えられていた河童の目撃例は、昭和中期を境にめっきり減った。

2012年に絶滅指定されたニホンカワウソ最後の目撃例が1979年であることにならえば、河童も絶滅種と考えてよいだろう。

ここで河童の生理を考えたとき、昭和中期に起きた環境破壊は言うまでもなく衛生観念の普及である。

徹底的な衛生管理により、20世紀中頃から寄生虫の保有率は劇的に減少することとなる。それでも回虫の保有率は農村を中心に高水準を保っていたが、人糞を肥料に使わなくなるにつれ あっと言う間に駆逐されていった。

今後の展望

民俗学的に見ると、河童の個体数減少は地方の大型開発や相撲の求心力低下が主因とされてきた。しかし地方の開発が止まっても河童の住みやすい環境が回復しているとは言えないのが現実だ。

一方、自然食ブームの流れで下肥を使った伝統農法への支持も根強い。仮に絶滅を免れた河童が存在する場合、こうした地域に集中して棲息している可能性が高い。

保護して飼育する場合、飼料の確保も含めて多角的に検討する必要があるだろう。

参考文献

本稿は、以下の先行研究を元に当研究所の見解を追補したものである。

謝辞

参照した先人の議論に感謝したい。