【アナと雪の女王】「少しも寒くないわ」の理由を計算してみた

『アナと雪の女王』で、エルサがアレンデールを凍結させたエネルギーについて計算した論文があると知りました。それを踏まえた世界観の再検証と、熱量計算についての試案です。

【アナと雪の女王】「少しも寒くないわ」の理由を計算してみた

『「アナと雪の女王」のエルサが氷の城を作るために要したエネルギーを計算したら、実に5,800,000,000,000,000ジュールでした』

…という話を見て感心したので紹介されてた論文を読みに行ったところ、城の話なんか一言も書いてなかったんですけど!(怒)

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エルサ=雪の女王 です。

「アナと雪の女王」に関するデマ記事と元記事の比較

エルサの冷却パワーを計算した論文というのは実在します。それを紹介した記事が誤訳含みでした。

元論文では氷の城に対する試算はない

アナと雪の女王のモデルになったネーロイ・フィヨルド
ネーロイ・フィヨルド】 CC-BY2.0

紹介されている論文によると、考察対象はアレンデール一帯が凍結した場合ということでした。氷の城への言及はありません。

Powering Disney’s Frozen with a Carnot Refrigerator | Goldberg | Journal of Interdisciplinary Science Topics

雪の女王エルサは希薄な空気から雪と氷を作り出す能力を持つ。作中、彼女は不注意によりアレンデール王国の首都周辺のフィヨルドを凍らせ王国を冬にしてしまう。本論はこの凍結に関わる総エネルギーをカルノー冷凍庫により算出した。(Introductionより おち抄訳)

ちなみに fjord (フィヨルド)とは 入り江地形の一種を示す地質学用語、
Carnot refrigerator(カルノー冷凍庫)は 熱力学モデルの一種です。

肝心の氷の城に関する記述が一切含まれない理由は、エルサの城の構造が判らないので計算の定義付けが難しいからでしょう。

ガジェット速報の内容

一方、日本語記事で一番広まってる話がこちら。

http://ggsoku.com/tech/disney-frozen-elsa-freezing-energy/

カナダのマクマスター大学の研究員Aaron Goldberg氏は、科学雑誌「Journal of Interdisciplinary Science Topics」に投稿した論文の中で、この城をつくり上げるために要したエネルギーを試算。モデルとなっているノルウェーのネルフロイデ城のデータから城の表面積を算出し、建造に必要な氷の量をおよそ9900万トンと算出しています。

「城を作った」と明言してますね。他にも原文に存在しない記述がちらほら。残念ながら論文読まないで書かれてる感じです。
(※引用部分は2014/08/01時点のもの 2014/08/02現在では内容が書き換わってます)

引用元の英語サイト該当分の記述

翻訳元サイトは論文に沿った内容なのにね。

How Much Energy Would You Need To Replicate Elsa’s Powers In Frozen?

論文著者Aaron Goldberg氏は、雪の女王エルサが「事件」を起こしたとき どれほどの水が氷になったのかを試算した。アレンデール王国のモデルがノルウェーのネーロイ・フィヨルドであることから全表面積と氷の密度を推量、王国を覆った氷の総量が約9900万トンであったと結論づけた。(第2パラグラフより おち抄訳)

なんだかなぁ…。(´・_・`)

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【追記:2019-11-17】元論文のリンクが切れていたので修正しました。

アナと雪の女王で熱力学を空想科学

しかしながら取り上げられている論文そのものは大変示唆に富んでいます。気を取り直してアナ雪の世界観を味わい尽くすことにしましょう。(^^

エルサのエネルギーポテンシャルは広島型原爆115基分

(該当論文より)結論
彼女の素早いフィヨルド凍結をカルノー冷凍庫により行ったとすると必要エネルギーは5.8 x 1015ジュールである。これは広島型原爆115基分、あるいは長崎型原爆63基分に相当する。この莫大な数字から透けて見えるのは彼女が強大な能力を持っていること、あるいはディズニーがファンタジーとしてこの効果を処理したということなのだ。(おち超訳)

アレンデール城周辺だけとは言え、ものすごいエネルギーですよね。

ここで改めてイントロダクション部分に「to create snow and ice from thin(希薄な) air」と書かれているのが生きて来るのではないでしょうか。

エルサは必要な冷気をどこから生み出したのか

氷

まずは一般的な系で熱交換することを考えましょう。熱交換装置であるヒートポンプを使ってものを冷やす場合、冷媒に二酸化炭素を使えば-70度の大気からでも熱を奪うことが可能です。

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二酸化炭素冷媒のヒートポンプ、家庭用給湯器エコキュートがこのタイプです。

このとき下げた熱量に応じて廃熱が発生するはずですが、お話を見る限り周囲の気温が上がってる気配は感じられません。おそらく彼女の体内に吸収されているのでしょう。

ここで、論文の前提となってる20度の湿気から氷晶を作るには1gあたり約2,700ジュールの熱を奪う必要があります。これはざっくり 600カロリー超に相当します。

成人女性の消費カロリーが 1,800Kcal程度と考えると、一日あたり 3Kgほどの雪を降らせば生命維持に必要なエネルギーが得られることになるでしょうか。(消費カロリーちょい多めですが北欧系なら日本人より大柄だろうということで)

つまり、雪を降らせれば振らせるほど体内に熱を取り込むことが出来る。

エルサは雪の女王であるからこそ「少しも寒くない」のです。

熱交換だけでは絶対的にエネルギーが足りない

しかし新たな矛盾が生じます。覚醒後のエルサが作り出す雪氷は とても数㎏やそこらの分量ではありません。つまり一般的な系では自分が作り出した余剰エネルギーを受け止め切れなくなってしまうのです。

…ということは E=mc2 の出番です。熱交換ではなく質量を丸ごと消失させれば桁違いのエネルギーを生み出すことが可能になる。

1gの物体をまるっとエネルギーにすると 9 x 1013ジュールですから、アレンデール王国をすっかり凍らせるには「64gの何か」をこの世から消し去りさえすれば良いのです。

そしてエルサはそれをやってのけました。しかもエネルギーロスとなる光や音をほとんど発生させず、常温で安定的に!

考察&まとめ

氷原

以上のことから、生来ヒートポンプによって氷を生み出していたエルサは覚醒によって常温核融合を自在にコントロールする力を得たと考られます。この二つの力を組み合わせれば、わずかなリソースでほぼ無尽蔵のエネルギーを得られますよね。

論文著者のゴールドバーグ氏は エルサの周囲で繰り広げられる膨大なエネルギー交換を「ファンタジーで片付けられた」と結論づけてるようですが、私はむしろ作品に抱いてた違和感が一気に解消しました。

冷却に使うエネルギーは一体どうしてるの? ごはんはちゃんと食べてるの? オフショルダーのドレスで本当に寒くないの?

思わず心配しちゃってたアレコレは彼女の能力さえ肯定すれば全てがうまく繋がります。ファンタジーどころかハードSFってことで全然問題ないんじゃないかな!

ただしこの論文は塩水が不凍液として働くことをほぼ考慮してないので計算結果としてかなりの誤差を含んでいます。「真のエルサの実力は少なくともこれ以上」ってニュアンスですね。

あと贅沢を言えば、やっぱり氷の城を作るエネルギー量が気になるのです。エルサの城はディズニーランドのシンデレラ城そっくりに見えるので、既存の近似3Dモデリングデータを使えばとりあえず氷の概算くらいはいけるんじゃないかなって思いました☆

はー、アナ雪ほんと良く出来てるわー。(´ω`*)

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【追記 : 2014-08-03】

記事の視認性が悪かったので引用英文は削除しました。それぞれ短い記事なのでリンク先たどればすぐに該当の部分が判ると思います。