鎌倉市で初めて出土した石棺墓の遺跡発掘現場を見てきたよ!

鎌倉市の由比ヶ浜で出土した長谷小路遺跡の発掘現場を見学に行ってきました。石棺墓と被葬者の保存状態が良くて驚きました。

鎌倉市で初めて出土した石棺墓の遺跡発掘現場を見てきたよ!

鎌倉市の由比ガ浜にて、鎌倉市内では初めての発見となる古墳時代の箱式石棺墓(はこしきせっかんぼ)が出土しました。

報道を見る限りでは、骨の保存状態も極めて良さそうです。そんな折、発掘現場で1日限りの一般公開があるというので見に行ってきましたれぽ!(⊙Д⊙)

長谷小路周辺遺跡とは

まずは立地のご紹介から。今回の遺跡は江ノ電・由比ヶ浜駅すぐ裏にあたります。海から300mほど内陸に入ったエリアで、「由比ヶ浜こどもセンター(仮称)」の建設が予定されていたとのこと。

鎌倉長谷小路遺跡の様子
鎌倉・長谷小路遺跡の全体像

遺跡の時代背景

遺跡は様々な時代のものが文字通り折り重なっていました。古いものは古墳時代(中~後期)から、中には中世に至る生活用品も。

海にほど近いことから砂壌土が吹き寄せて、古い時代のものがどんどん埋まって積層構造になっていったようです。

出土したもの

  • 方形竪穴建物(半地下式の倉)7軒
  • 井戸1基
  • 土壙墓(穴堀っただけのお墓)1基
  • その他イヌ、ウマ、ヒトなどの骨

書き出した他にも、石臼や陶器片など時代を超えて様々な生活用品がありました。

甕や土師器・須恵器
甕と土師器・須恵器

陶器片の時代もバラバラで、土師器(はじき)須恵器(すえき)と言った素焼きの陶器から、釉薬を掛けた後のものまで多岐に渡ります。

常滑焼や硯など
常滑焼や硯など

出土した陶器は遠方のものも混ざっていました。古くから各地との交易があった様子が伺えます。

骨の加工品や滑石
骨や滑石による加工品

また、鹿の角や動物の骨を削って作った加工品などもありました。骨で作られたサイコロはまさにサイコロの形をしていたそうです。見てみたかったなぁ…。調査のため、別の場所に保管されていると言うことでした。

石棺墓と土壙墓

今回、最大の発見とされたのが古墳時代の箱式石棺墓と土壙墓(どこうぼ)です。

神奈川県内の箱式石棺墓は、これまで近隣の横須賀市(埋め込み地図で右下に相当)で複数見つかってました。鎌倉市内では初めての出土になるとのことで、貴重な資料となりそうです。

箱式石棺墓

鎌倉・長谷小路遺跡の石棺墓
石棺墓と被葬者

今回最も大きな注目を浴びた箱式石棺墓です。泥岩を削って棺が組まれていました。こういう、仰向けで普通に寝てるお葬式を仰臥伸展葬(ぎょうがしんてんそう)って言うんですね。

被葬者の身長は156.2cm、骨や歯の状況より15歳前後の男性と推定。副葬品はなく、盗掘もないだろうと言うことです。

古墳時代の体格をよく判っていないのですが、15歳男性として156.2cmはかなり大きいのではないかというのが正直な印象です。立派なお墓に入った地位の人ですから、栄養状態が良かったのかも知れません。

遠目からも細かい骨が良く残っていて、非常に美しい骨だと思いました。

土壙墓

鎌倉・長谷小路遺跡の土壙墓
出土した土壙墓と被葬者

石棺墓から8mほど離れたところに別の骨も見つかっています。こちらも体を伸ばした状態でした。

土葬とは言え、古い時代だと姿勢を整えて葬ること自体が稀だったようです。博物館などでも屈葬展示をよく見ますね。伸身で埋葬されたというだけでも手厚く葬られたと言えそうです。

現場の地質

鎌倉長谷小路遺跡の地層断面
鎌倉長谷小路遺跡の地層断面

掘り返した露頭を見ると、砂壌土であることがよく判ります。骨の保存状態が良かったのはこの地質が理由かなという気がしました。

関東に広がる特徴的な関東ローム層は酸性だから骨が残りにくいのですが、海砂だったらミネラルの流出が最小限に抑えられるのでしょう。(まだ調査が進んでないためか、この件に関して関係者による明言がなかったのでご参考マデ。)

【PDF】長谷小路周辺遺跡 発掘現場見学会 – 鎌倉市

見学会の様子

ここから個人的な感想中心にお届けします。(・∀・)/

今回の出土の件、全国区のニュースとしてはどうか判りませんけど県内ニュースとしては割と大きく扱われていました。

発掘現場の一般公開は2016/06/12(日)のみ。午前の部と午後の部に分かれていたので午前の開始ぴったりに行ったんですけど、既に数百mを越す列が出来ていてちょっとひるみましたよね。

会場となる敷地内はそれなりに広くて、全体で400坪くらいあったと思います。建設予定の「由比ヶ浜こどもセンター」とは、保育園や学童などを兼ねた児童向けの複合施設ということです。

工事中の遺跡発掘

古い街というのは、地面を掘るとそれなりに色々と出てきますね。

工事中に遺跡や化石が出ちゃうと工事が止まって施主が大損になるといいます。友人も家を建てるときに「絶対に遺跡が出ませんように」って祈ってました。

単に工事が延期されるだけでも大変なのに、そのぶん金利がかさむし、しかも繋ぎ融資だったりすると余計に利率が跳ね上がるし、仮住まいをしてたらそっちの家賃もかかる上に、人が住んでない土地は固定資産税の優遇措置もないってことで、想像するだに震えが止まりません。:;(∩´﹏`∩);:

それと「建て替えだったら既に掘り返した後だから大丈夫」と高をくくってる人がいるけど、昔と違って今は基礎が深いので建て替え時に出てくることがありますよ…。(´-`)

調査したのは建設会社の調査部

あとちょっと驚いたことといえば、発掘調査を行ったのが建築会社だったこと。(株)斉藤建設埋蔵文化財調査部というところが担当していました。

私は学生時代に地学専攻だったので、例えば化石が出たりすると発掘調査の手伝いをしうる立場でした。でも大学の研究室や博物館じゃなくても企業が発掘調査を担当する場合があるんですね。

民間企業が対応出来るだけの件数が発生する、…というか、むしろ片手間では無理なボリュームってことになります。さすが鎌倉やで。(⊙Д⊙)

思い立って京都や奈良でも検索してみたら、やはりそういう街には遺跡発掘を請け負う会社が存在するようでした。

鎌倉石

ちなみに鎌倉一帯の歴史語りでは、しばしば「鎌倉石」という言葉が出てきます。加工性が良く、寺社の灯籠や石垣等に使われることの多い砂岩です。

鎌倉周辺の尾根を歩いたことがある地質屋さんだったら判って貰えるかな。(^^; 鎌倉石というのは、逗子から江ノ島くらいにかけて良く見かける「軽石くらいの硬さの詰んだ凝灰質砂岩」のことですね。

鎌倉石
鎌倉石

湘南一帯の寺社や旧家で多く見かけますが、現在では鎌倉の景観保全を理由に採石が禁止されています。石屋さんの在庫が尽きたら入手不能とのこと。そのため、歴史ある寺社でもすり減った石段などを補修するのに苦労しているそうです。

以前、鎌倉石で作られた石段の補修作業をテレビでやっていましたが、物陰にある目立たない石と交換したり裏表をひっくり返したり手間のかかる作業をしていました。

もういっそのこと手に入りやすい別の石を使えば良いのでは…と言う気もするんですが、実はとっておきの効能があるんですよね。よく水を吸うので「良い感じに苔むす」んです。禅寺の多い「鎌倉らしさ」を演出する上で鎌倉石は一番の名脇役かも知れません。

おわりに

そんなわけで、驚きの大発見を見てきた感想でした。

今後この遺跡はどうなるの?

…という疑問については、一通り発掘調査が終わった後に埋め戻されて本来のこどもセンターが建つようです。

以前は大きな遺跡を埋め戻すという話を聞くと少し「もったいないなぁ」と思ってたんですが、今回みたいに保存できないタイプの遺跡もありますね。掘り進めるにつれ違う時代が出てくる場合は、一通り掘ってみないことにはどうしようもないんでしょう。

もしかしたら今後さらなる遺跡が出てくるかも知れず、その動向も大いに注目されます。一連の資料から新しい発見が見つかると良いですね。(・∀・)