「デザイン」をダメにする「オシャレなデザイン」

「デザイン」は非常に誤解されている言葉です。この単語のコアに「オシャレにする」という意味はありません。ユーザエクスペリエンス(UX)とUIデザインを考えたとき、使いにくいサービスはそもそもデザインされてないと考えるのが妥当です。

「デザイン」をダメにする「オシャレなデザイン」

デザインとユーザエクスペリエンス(UX)

以下に挙げるのは「デザイナーズデザインとユーザエクスペリエンスのギャップ」として、ちょくちょく話題になる画像です。

デザインとUXのギャップ

この図は「デザイナに強要される変な道よりユーザは自然な経路を選ぶ」という主旨で多く紹介され、実際に「見た目先行のデザイン」を叩くうえでなかなか痛快な役割を果たしてます。

しかし、この歩道は「そもそもデザインされてない」というのが私の立場です。

本稿ではその観点からデザインとUXとの関係について改めて考えてみたいと思います。

ユーザエクスペリエンス(UX)とは

ユーザーエクスペリエンス(UX)は一般に「ユーザ体験」と訳されます。提供された商品やサービスに対して、受け手である利用者が「実際に体験すること」を指します。

「ユーザ体験」という語感からは想像しにくいのですが、ここにはサービスを実際に享受する以前に発生する「パッケージから受ける印象」や「期待感」のようなものも含むのが特徴です。

デザインとは

一方、「デザイン」という言葉はラテン語の「designare(デジナーレ)」から来ています。「デッサン」同様に「(設計を)書き落とす」というイメージです。

ここでdesignをLongman英英辞典で引くと

【Design】

1. the art or process of making a drawing of something to show how you will make it or what it will look like
2. the way that something has been planned and made, including its appearance, how it works etc
3. a pattern for decorating something
4. a drawing that shows how something will be made or what it will look like design for
5. a plan that someone has in their mind

となるので、やはり核となるイメージは「アイディアをどのように書き落とすか」という部分にあるようです。単純な装飾をメインに据えてるのは3番くらいでしょうか。

これは Longman に限った話ではなく、複数の辞書で引いても傾向は変わりません。

英語における「design」のイメージ

その上で改めて先入観抜きに design という単語を眺めると、 de + sign と分かち書きされた字面から受け取る印象は「記号に落とす」という以上に「記号から離れる」イメージに近いです。

実際、近代以降に名を馳せたデザインは「アイディアを形にする」技術力よりも「既成概念を破壊する」「新たな価値を作る」という部分で強いインパクトを残してきました。

ラテン語から英語への翻訳を経て、表現の切り口が英語側に引きずられていったと言えそうです。

UXとデザイン

本来、優れたデザインは良いユーザエクスペリエンスをもたらすはずです。

デザインとユーザエクスペリエンス(UX)

図のように、ユーザとデザイナの間にミスマッチが発生する事態は新たな価値を創造することに失敗しています。「思ったものを形にしてみた」という前時代的なデザイン領域を出ていないからです。

これは意匠がユーザを受け止めきれなかったという点で、本稿で言う「近代的なデザイン」の要件を満たしていません。

やむを得ない理由で園路がこの形になってるならば、あえて遠回りをしたくなる仕掛けを作ってユーザの導線を変えてしまうのが「近代的なデザインの力」でしょう。

「芝生に入るな」と看板を立てる、実際に柵を立ててみる。あるいは、思わずなぞって歩きたくなるような飛び石模様を道に描く。

強制力はなくとも、一部の視線が最短経路から外れれば人の流れも変わるでしょう。UXとデザインは表裏一体の関係です。

優れたデザインが持つ説得力

確かに独創的な形状は多くの人目を引きます。優れたデザインと評価する人もいるでしょう。しかし利用者の使い勝手を考慮しない奇抜なアイディアが根底にあれば極端にユーザを選ぶ。

質の高いUXをもたらすのは、よく練られたデザインコンセプトであって造形そのものではありません。

利用者の幸福度を示す指標として「戸惑わない」という要素を考えたとき、導線の構成はもっと重視されて良い。「デザイン」にまつわる誤解は、装飾性を同一視することで生まれてるように思います。

おわりに

冒頭の図に関する追補です。

デザインとUXのギャップ
Dipt Chaudhary’s answer to What is the difference between UX and UI designer and web designer? – Quora

元絵はあちこちでコピーされ過ぎて原著作者が判らなくなってるため、本文中の解説では自分で書き直した絵を使いました。類似の地形が近場になかったので雰囲気違うけどご容赦下さい。

調べた範囲で元ネタだろうと思われるページにリンク張っておきます。

【楽天】ノンデザイナーズ・デザインブック / 【Amazon】