めっきり夏らしくなり「一ヶ月で○Kgやせたいんだけどどうしたら良い?」というような相談を受けることが増えました。
そもそも食事制限も激しい運動も全く苦にならない私にダイエットの相談をするのは間違っていると思うのですが、たびたび質問を受けるので持論を述べます。
私自身は物理寄りの学科出身ですので、栄養学というより算数の話をします。
脂肪を減らす大前提
ダイエットをするにあたって、前提を確認します。
摂取エネルギーよりも消費エネルギーが多いとき脂肪が減る
ダイエットサプリやらフィットネスの広告を見てると「痩せやすい体質」とか「加齢による○○力の低下」とか「脂肪燃焼効率の良い運動」とか「筋トレに伴う体重増」のように話が複雑になりがちです。とりあえず条件を整理しましょう。
確かに痩せやすさには個人差があります。しかしブースターとしての係数を取っ払えば、基本構造は「食べた以上に使えば痩せる」に行きつくはずです。じゃないと熱力学第一法則が成立しなくなっちゃう。
もし本当に「全然食べてないのに太っちゃうの」という人は、世界的な物理学者か大きな製薬会社に連絡すると良いですよ。
特殊相対性理論レベルのエネルギー革命か、世界規模の飢餓を救う腸内細菌ないし代謝系が発見されるはずなので、そのパテント料で腕利きのパーソナルトレーナーを雇ってください。
1Kgの脂肪を落とすのに必要なエネルギー
さて。1Kgの脂肪を落とすのに必要なエネルギーは約7,200Kcalと言われています。
中学校だか高校だかの理科で「油脂のエネルギーは1gあたり約9Kcal」と習ったはずですが、腹の脂は水分などの不純物も混ざっているのでグラムあたりのエネルギー単価がちょっと減ります。やったね!
よって1Kgの脂肪を落とすためには、のべ7,200Kcal相当の運動を増やすか、同様に7,200Kcal相当の食事を減らす必要があるでしょう。
標準的な摂取カロリー
今度は摂取カロリーを見ていきます。
ダイエットしようと思ったときに普段の食事量を即答できれば話が早いんですけど、個人差もあるのでひとまずモデルケースを考えます。
厚労省によると「若年成人女子(18-29歳)の推定必要カロリー」は、1,650Kca~1,950Kcal。前者がほとんど運動しない場合で、後者がふつうの運動量。30代以降だとそれぞれ1割くらい減ります。
【PDF】「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書
この数字は「体型維持に要するカロリー」ですから、やせたい人は「運動してない割にちょっと食べすぎ」ということになるでしょうか。間を取って1,800Kcalとします。
一ヶ月で最大何キロやせるか
ここからは皮算用です。
日ごろ1,800Kcalの食事をしている人が1Kgやせたい。一番手っ取り早いのは何も食べない場合です。
7,200Kcal ÷ 1,800Kcal/日 = 4日
…ということで「ちょっと食べすぎ」くらいの成人女性が1Kgやせるのに必要な日数は、単純計算で最短4日です。
しかし残念なことに1ヶ月は30日程度しかありませんから、このペースで脂肪を落としても7.5Kgしか減りません。一か月絶食しても10Kg減らない。食事をしながらだと当然もっとのんびりペースになります。
一ヶ月の絶食で10Kg痩せるのに必要な摂取カロリー
では、普段どれだけ食べてれば一ヶ月の断食で10Kg痩せることができるのでしょう?
だいぶ本末転倒な議論になってきましたが、最初から机上の空論をする気満々ですからこのまま突っ走りますょ。
今までの計算に「一ヶ月で10Kg減る場合」を代入すると、元の食事量は1日あたり2,400Kcalとなりますね。先ほどの厚労省データに照らし合わせると「ローティーン男子の摂取カロリー」に相当します。毎食800Kcalって結構な食事量です。
食べ盛りの男子中学生に一か月何も食べさせなければ命にかかわることは自明ですし、どちらかというと断食しろと指示した人の命が保証されない感じになってきました。
理想と現実
ちなみに本当に飲まず食わずをやると脂肪より水の損失割合が大きくなるので、4日で1Kgじゃなく、もっと減ります。
ただし一滴も水を飲まないと3日で命の危険が出てきます。災害救助などの捜索期限が72時間を目安にされるのもそのため。
あと極度の空腹を水でごまかすとイオン濃度が乱れてやっぱり生命維持に支障をきたします。素人判断による断食が危険と言われるのはこの辺が理由です。
一ヶ月で10Kgやせるサプリの実効性
最近よく一ヶ月で10Kgやせるサプリとか売ってますね。「怖いほどやせる」みたいなキャッチコピーがついてたりして。
個人的に怖い話が嫌いなので全く興味ないんですけど、百歩譲って本当に10Kg減ると仮定します。
ここまでの展開に大きな間違いがなければ、「ちょっと食べすぎ」くらいの女性が食べたものを完全になかったことにしても一か月で減る最大脂肪量は7.5Kgです。…ということは、脂肪以外のものが2.5Kgぶん落ちてることになる。
骨細胞の再構築は最短でも3か月くらいかかりますから、ほかに減るとすれば筋肉です。
リバウンドの怖さ
晴れてサプリで10Kgやせたとします。その内訳を脂肪7.5Kg、筋肉2.5Kgとします。
ぜい肉が取れてめでたいんですけど、筋肉が落ちると基礎代謝量が減ります。人の筋肉は内呼吸により 50Kcal/Kg/day くらいのエネルギーを消費することが知られているので、ビフォーアフターで1日当たり125Kcalくらいの基礎代謝が失われてしまいました。
1日当たり125Kcalの差なんて唐揚げ1個ぶん程度の違いなんですけど、積もり積もるとバカになりません。もし運動量と食事量がやせる前と変わらなければ、2年もしないうちに10Kgリバウンドする計算です。
運動しないダイエットが怖いのは、リバウンドを繰り返すとだんだん体重が減らなくなること。筋肉が2.5Kg落ちた状態で2回目のダイエットをした場合、一か月につき丸2日分のエネルギーが使われないまま余ります。前回と同じようにやっても減るのは9.5Kgです。ほぼ10Kgやせたように見えても、あと一押しが効いてない。
もちろん本当に食べた分がチャラになるなら、ビタミンやミネラルも吸収されないことになるので栄養失調で倒れかねません。
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