ハルキゲニアの本当の復元図について語るときに僕の語ること

あのハルキゲニアが第三形態に突入!バージェスモンスターの花形ハルキゲニアの頭がとうとう見つかったのです。「人の股を頭だと思ってたなんてあんまりだ!」(カナダ在住ハルキゲニアさん談)

ハルキゲニアの本当の復元図について語るときに僕の語ること

1911年の発見から104年の年月を経て、カンブリア紀の古生物ハルキゲニア(Hallucigenia)の真相がまたひとつ明らかになった。

ハルキゲニアは、地球生命史を語る上で欠かすことのできないバージェスモンスターの一種である。その太古の生物の、頭部だと思われていた部分が実は肛門だったというのである。

カンブリア紀のアイドル ハルキゲニア

ハルキゲニアとは、約5億年前のカンブリア紀に栄華を誇った海棲生物の一種である。化石から推測される体長は、大きなもので約3センチ程度と推測される。

カンブリア紀には多種多様な生命が爆発的に生まれ、それらは化石となって今に残されている。一連の生物群が発掘されたカナダのバージェス頁岩の名を取って「バージェスモンスター」と呼ばれていることを知っている人も多いだろう。

バージェス頁岩のハルキゲニア化石と復元図

ハルキゲニアは特に名高い生物のひとつであり、古生物愛好家の間でもキャラクター化されるなどして人気が高い。

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hallucination = 幻覚

「現存するいかなる動物からもかけ離れた」奇怪な復元像によりハルキゲニア(Hallucigenia、幻覚のような)と名付けられたが、発見より70年以上もの時を経た1980年代に驚きの修正案が出た。トゲが背中で触手が脚で。なんと上下逆さまに認識されていたのだ。

そして今回、頭部とみられていた膨らみが「肛門から出た消化管」だったことが判明して新たに話題となっている。上下逆さまどころか前後も逆だったとは。「幻覚」の名にふさわしい不思議な生き物と言えるだろう。

研究チームによる最新の復元像も公開されている。

…だけど何だか普通っぽい(´・ω・`)

ハルキゲニア復元像の変遷

ハルキゲニアの研究史は、まさに混沌の記録そのものであった。

ハルキゲニア復元図 1911

長い爪を立てて歩くハルキゲニアの初期復元像は、どこかバクテリオファージを彷彿とさせるエイリアンのようないでたちをしていた。まさにこの世のものとは思えない風情に満ちていたのだ。

ハルキゲニアの初期復元像とバクテリオファージ

ハルキゲニア復元図 1984

後に「背中に生えた触手が実は脚」であり、「無用に長い爪も単に背中のトゲだった」と判ったわけだが、この時点で「何となく実在してもおかしくないような気がしないでもない」ステージに変わってしまった気がする。

ハルキゲニア復元像1984版 上下逆さま

ハルキゲニア復元図 2015

それがここに来て、頭部だと思われていた組織は体内から押しつぶされた消化管や排泄物だったことが明らかになったわけだ。

ハルキゲニア復元像2015版

その形状は極めて変わってはいるけれど生命としてありえなくはない。

そんなのありえなくなく なくなく なくなくない?(つまり、ありえる)

これは確かに驚くべき発見に違いなかった。だがしかし、これでは現世を生きるカギムシと大差ないではないか。

バージェスモンスターの系譜を継ぐカギムシ

そう。カンブリア紀に突如として現れた奇怪な生命体は、進化の道を今に正しく残していたことになる。ハルキゲニアは「現存するいかなる動物からも掛け離れた存在」などではなかったのだ。

あぁ。僕の胸の中で、安物のスフレケーキがしぼんでしまうような音がした。

さよなら愛しきハルキゲニア

僕の中に住んでいた清潔なモンスターは死んでしまった。静寂の海底にふわりと爪を立てていた、あの完璧なハルキゲニアはもうどこにもいない。

ハルキゲニアのすべらかな肉片は、長い時間をかけてその本来の記憶を失ってしまった。しかし僕は、しっとりと艶めく頁岩に刻まれた、あのやわらかな影を確かに愛していたのだ。

だがそれらはすべて幻だった。

ただ、ひとつだけ言えることがある。なでつけた粘土のような肉塊の正体は、膨れあがった股間そのものだったのだ。

やれやれ。

僕は深いため息をひとつして、最後にそっとパソコンを閉じた。

Hallucigenia/’s head and the pharyngeal armature of early ecdysozoans : Nature

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