サイエンスは最高のエンターテイメントやDay!を観てきたよ!

日本微生物生態学会が贈る、異色のサイエンスショーというのを観てきました。

サイエンスは最高のエンターテイメントやDay!を観てきたよ!

先日(2016.10.22)、日本微生物生態学会による市民講演会というのを聴講してきました。

サイエンスエンターテインメントショーと題して、コントありーの、映画上映ありーの。他に類を見ない文化祭的イベントでござったよ。

大会の広報番長である微生物学者・高井研先生のプレゼンはアストロバイオロジー(宇宙生物学)をテーマとした近年の講演として最高に冴えてたし、平朝彦JAMSTEC理事長のルンルンした講演が聴けただけでも個人的には大満足です。(´ω`*)

登壇した先生方の講演内容もバラエティに富んでおり、それぞれに興味深く楽しみました。

自分でも驚いたのは、数年ぶりに見たプラネタリウム映画「Eternal Return いのちを継ぐもの」への感想がガラッと変わってたこと。初見では「判りやすいけど教育色が強いなぁ」って印象だったのですが、久しぶりに見たら ほのかな情感にグッと来ました。

第一部:市民講演会

「日本微生物生態学会 横須賀2016併催 市民講演会&サイエンスエンターテイメント」の講演メモです。

全体としては二部構成で、前半は比較的オーソドックスな感じの市民講演です。

微生物生態学会の名にふさわしく、「日常の身近な微生物」をテーマにした総論と各論の計2本。見出しのお名前は敬称略にて失礼しまっす。

「広くて深い、海と微生物の話」山本 啓之

皮切りは本大会の委員長でもある山本広之氏の講演です。「生態系における微生物の働きは多種多様」という導入から、経済的に生物の働きを可視化する「生態系サービス」なる概念が紹介されました。

ここで言う「サービス」とは「生態系が人間活動に及ぼす具体的なベネフィット」を指しており、食品としての利用だったり文化活動に寄与する状況を言うようです。

仕事や研究で微生物を扱ったことがある人にとって「微生物の経済的価値?そんなのあるに決まってるじゃん」って感じだと思うのですが、私が気になったのは「微生物の価値を経済で計ることに意外性・新規性を感じる人がいるらしい」という部分。

生物の価値を何らかの指標で定量的に示せば他分野からのフィードバックも扱いやすくなるし、その指標に金銭を使うのは割とフェアな判断だと思うのですが、「命を金に置き換えるなんて」って発想の人もいるのでしょう。

生命を客観的に評価することの難しさかも。

「光あふれる海の微生物」吉澤 晋

発光微生物を専門とする吉澤氏の演題は、「魚屋で売ってる魚貝は光るか!?」という夏休みの自由研究的フリーダムな内容でした。

発光生物というと珍しい生き物という印象を受けますが、こと海の生物は何らかの方法で光る割合が8割にもなるのだとか。生物による発光現象は、日常的に食卓に上るような食材でも観察できると言うのです。

光る食材と言えばホタルイカが有名ですけど、例えば発光性プランクトンを好んで食べる生き物なら臓器が光ることもある。じゃぁ「そのへんで売ってる鮮魚を買って実際に光るか確かめてみよう!」…という流れでした。

夜光虫

スライドのテンポで地味な笑いを重ねるあたり、絶妙なるデイリーポータルZ感が漂います。(´ω`人)

整然と並ぶシャーレに刺身。それらがほのかに妖しく光る。マジプレイはダンシン。「魚」というより「介」が光る。

しかも世界各地の海域から採取した生物発光色を調べたところ、「外洋にいる生物の方が青い」のだとか。水には赤色光を吸収する性質がありますから、遠くまで発光を伝えようと思ったら「より青い光」の方が有利に働くのでしょう。

目下のテーマはチョウチンアンコウだそうですが、このチョウチンアンコウを研究するのも一筋縄ではいかないようです。発光生物に関するこぼれ話が次から次へと飛び出して、非常にアトラクティブな講演でした。(・∀・)

光る生き物

第二部「サイエンスは最高のエンターテインメントやDay!」

本題の第二部です。「サイエンスは最高のエンターテインメントやDay!」と題した一連の講義は、幕間にコントを挟む少し珍しい形式で進行しました。

コント「未知のヨコスカとの遭遇」

コントといってもSF仕立ての連続劇で、生命の起源を宇宙に求めるサンプルリターン計画がローンチされた近未来の日本(…というか横須賀)を描いてます。

目指す天体は大海を抱く土星の衛星エンケラドゥス。

この設定でピンとくる人は来るわけですが、劇中のプロジェクトリーダーはもちろん海のスペシャリストJAMSTECの高井研先生であります。

虚実を織り交ぜたシナリオはYMOとのコラボで知られるコントユニット「スネークマンショー」を匂わせながらも、どちらかというと大阪が誇るエンタメバンド「モダンチョキチョキズ」に近い気がしたのはここだけの秘密です。

「三浦半島を形作る地球の営みを知ることで日本が、地球が、見える見える」平朝彦

JAMSTECの平理事長が、三浦半島の堆積層を愛でながら終始ルンルンしていた講演。シルトとスコリアの互層をスクリーン一杯に映しながら、無垢な笑顔を振りまいてらした記憶しかありません。

わたくしも元地学徒のはしくれですし、万葉の互層が織りなす美しさは理解します。地球のダイナミズムめっちゃ尊い。付加体が作る縞模様はまさに激動の歴史そのものですから。

でも最後に気づきましたよね。「もしかして地質の話しかしてなくない?」

三浦半島のスコリア層
荒崎公園 – Wikipedia

もっともシルトと言えば微生物化石の塊みたいなものですから、これも微生物の多様性を支える話だったりするわけですが。

「君はペリーが見た史上最強の東京湾とその生態系を知っているか」桑江 朝比呂

「ペリー時代の東京湾は果たして豊かな海であったか」について、「豊かな海とは何ぞや」という考察を踏まえながらの思考実験です。

そもそもこの演題は高井先生が一方的に持ちかけてきたものらしく、ちょいちょい高井disが織り交ぜられているのが実に味わい深い。

微生物は魚のエサにもなる一方で、増えすぎると赤潮のように環境を悪くしてしまう。生物相を豊かにするにはバランスが大切なのですね。いわゆる「棲んだ川には魚が少ない」問題を具体的数値を交えてシミュレートするものでした。

伊能図 南関東地方
古地図コレクション – 国土地理院

当時の人口や古文書の記録から幕末の東京湾を推察し、ご所属である港湾空港技術研究所の東京湾シミュレータに掛けた結果はなんと「海が持つ機能性は現代の方が上」であろうとのこと。

ただ古東京湾の初期値には、書き出された条件のほかにも使えそうな植生データが存在するように思いました。

終演後にその旨を質問したら「確かにもっと話を詰められそう」というお返事を頂きました。今後どこかで補講が聞けるかもです。(๑•̀ㅂ•́)و

「横須賀から世界の、地球外の、海と生命を求めて」高井 研

最後は高井先生お得意の「生命の起源」を探るお話です。

宇宙人(地球外生命体)って本当にいるの?

生命を育てうる条件は、エネルギー収支の点から理詰めで絞り込める。
 ↓
でも絞り込んだ結果は意外とゆるくて、生命が存在できそうな環境は割と多そう。
 ↓
そして実在の生命体は驚くほど多様な環境で生きられることが判っている。
 ↓
例えば土星の衛星エンケラドゥスなら生命誕生の条件に合致するかも?
 ↓
しゃらくせぇ、だったら探査機を直接ぶち込んじまえ!٩( ‘ω’ )و

…という話を、もうここ何年も何回も聴きにいってたりするんですけど、今回のは良かった。ほんと良かった。めちゃくちゃ前のめりで聴いてしまいましたよね。

土星の衛星エンケラドゥスの内部予想図

土星の衛星エンケラドゥスの内部予想図【via NASA PD】

似たような内容の講演なのにどうして何度も足を運んでしまうのかと言えば、話が洗練されていくさまを見るのが楽しいのかも知れません。

音楽会や演劇が、同じセットリストでも日によって質が異なるように、研究者の講演内容も順を追って緻密になってく。

過去の講演会で同席した東京薬科大・山岸先生の率いるたんぽぽ計画や、はやぶさプロジェクトの橘先生、古大気を専門とするシカゴ大の横地玲果先生が提唱する理論やらNASAの発表を貪欲に飲み込んでくような感じが面白いんです。

宇宙人(地球外生命体)って本当にいるの?最新学説3行まとめ!
40億年前の地球大気ってどんな感じ!?「冥王代」の話を聞いてきた

そして「現時点での最新報告」である講義内容が、そのままの流れでコントの世界観にシフトしていく…というのがハイライト。

芝居のオチはベタな展開だったんですけど、「高井先生だったらほんと言いそう」とか思ってうっかり感情移入してしまった…。

まんまとはめられた感に敗北感が残りつつ、小説家の朱野先生も泣けたって言ってたからまぁいいや。

上映「Eternal Retuen いのちを継ぐもの」

そして締めは高井先生が監修したサイエンス映画「Eternal Retuen いのちを継ぐもの」を鑑賞しての閉会となりました。

本作は元々プラネタリウム番組として作られたショートムービーです。初めて観たときは科学的な描写を理解するのに忙しくて没入しきれなかったんですけど、今回は物語がすんなり入ってきました。

このテーマの講演を何度も聞いてるうちに、作中で描かれる個々の現象がどの話に裏付けられているのか自然と理解出来るようになったんでしょう。鑑賞の目線が全く変わってたことに自分でもかなり驚きました。

宇宙人を大真面目に探してる超有名研究者の講演会に行ってきた!

おわりに

今大会のポスターデザイン、一部のサイエンスファンの間で密かに噂されていた「いわく付き」の代物です。

パロディなのが明らかに判るモチーフですけど、どうやら「開港の舞台となった横須賀」と「横須賀から始まる微生物学の未来」を掛けてるらしい。

えっ、ちょっとそれ判りにくすぎない?:;(∩´﹏`∩);:

…いや、実のところ納得感はあるんです。細かなエピソードをシンプルな軸でまとめ上げるのは確かに科学的手法だと言える。言いたいことは判るんですけど。

でも個人的には、複数の理論を組み上げた「結果として」ひとつ階段を登るところに科学の醍醐味を掲げたいのです。実際この会はそれを体現していたと思うし、少なくとも私はそれを体感できた。

このイベント、行って良かったです。すごく楽しかった。科学は最高のエンタメだと声を大にして言いたい。

でも、仮にこの会がそっくり同じ形で再演されたとして、素直に人に勧められるかと言えば正直微妙。多分またいつものメンバーだけで行くと思います。

それについては、また稿を改めて。

日本微生物生態学会 第31回大会 横須賀 » 市民講演会&サイエンスエンターテイメント