40億年前の地球大気ってどんな感じ!?「冥王代」の話を聞いてきた

40億年も前の冥王代の地球環境を専門とする研究者の講演に行ってきましたれぽ。

40億年前の地球大気ってどんな感じ!?「冥王代」の話を聞いてきた

46億年とも言われる地球の歴史を紐解くには古い地層を調べる必要がありますが、40億年以上前の岩を観察することは非常に困難です。

隕石の衝突によって絶えず陸が作り替えられたり、そのエネルギーによって煮えたマグマが熱すぎて陸としての形をなさなかったり、場合によってはプレートテクトニクスによって古い岩が代謝されたりしたからです。

地球化学の専門家によるアウトリーチ講演で聞いて来た研究手法が非常に面白かったので備忘録にメモ。

40億年前の地質年代「冥王代」

冥王代の地球

地球誕生から40億年前までの約5億年間を地質年代区分で「冥王代 Hadean」と呼んでいます。

名前の由来はもちろんギリシャ神話における冥界の王ハデスより。若干 厨二臭さが漂いますが、地学用語は大体ロマンティック全開なのであまり気にしなくて大丈夫です。( ◜ᴗ◝ )

何にせよ当時の直接的な証拠となる岩石がほとんど手に入らないため、地球誕生の歴史は長いあいだ大きな謎とされていました。

しかし新たな観測技術の進歩や他天体の調査によって、これまでになかった情報が得られるようになってきています。

冥王代あらすじ

ジャイアントインパクト

原始地球が軌道の「ちり」を吸収しながら育つ過程で最終的に火星サイズの星とぶつかり、吹き飛んだ片割れが月になりました。この大衝突をジャイアントインパクトと呼んでいます。

この衝突エネルギーによって岩石がドロドロのマグマになり、表面に陸が再形成されたり火山が噴いて大気が生まれたりといった「地球特有のテクスチャ」が急速に形成されていきました。

放射性同位体を使った年代測定

古い年代を調べるには、放射性同位体を用いた年代測定法を利用するのが一般的です。

どの元素に注目して調べるかは対象によっていくつかのバラエティがあって、注目する元素ごとに得意な試料と分析しやすい年代が概ね決まっている感じ。試料が生物の場合は炭素を調べる炭素14法が知られてます。

今回登壇した飯塚毅先生は岩石の分析にウラン(U-Pb)を、横地玲果先生は大気の分析にアルゴン(40Ar-36Ar)を使っているとのことでした。

冥王代の大気の推定

冥王代における岩石と大気の考察。お二人の研究内容は非常に好対照でしたが、個人的には古大気の研究に興味をひかれました。

現代の大気なら普通に採取して分析すればいいわけですが、古い時代の空気って一体どうやって調べるんだろうって不思議ですよね。

例えば数万年くらい前の空気なら、南極の万年雪に閉じ込められた気泡などを探せば手に入る。しかし、それ以前のものになるとやはり難しいでしょう。

こちらも放射性同位体を用いた分析によって当時の組成を推定するのだそうです。

40Ar/36Arの変化

横地先生の手法は、40Ar/36Ar を指標としています。最初アルゴンと言えば「Ar-K法ではないの?」と思ったけど、トレーサーとして36Arを使うのだそうです。

地球深部から出てきたマグマやガスに含まれるArの同位体比は、ある一定の規則に従って変化します。生まれたばかりの岩石や大気の40Ar/36Ar比は高いけど、時代を遡るにしたがって数値が下がる。その比率を見れば生成年代が判る、という推定法です。

その分析手法に従うと、現代の大気は岩石と比べて大幅に 40Ar/36Ar 比が落ちるんだそうです。(メモしそびれたけど2桁違った。)

アルゴンによる大気年代の推定
アルゴンによる大気年代の推定

注:講演スライドから記憶を元に再現、グラフ形状はイメージです。

つまり現在ある大気のほとんどは、かなり昔に作られたガスが元になっていると言うんです。その昔というのが冥王代まで遡る。えっ、古すぎ!(;・`д・´)

現在だって火山活動はあるんだし、もうちょっとくらい更新されてて良いんじゃないの?

…という趣旨の質問をしたのですが、やはり地球全体がマグマで覆われていた時代と比べれば現在の火山活動は本当に微々たるものなんだそうです。

逆説的に、その頃の地球のダイナミズムを想像すると圧倒されますね!(⊙Д⊙)

キセノンのパラドックス

希ガスの発色反応
電球に封入した希ガスの反応

あと地球大気は他の天体と比べると元素キセノンXeの割合が低いことが知られていて、その謎を解明していくのも今後の課題だと仰ってました。

アルゴンやキセノンなどは元素周期表で言う「希ガス」と呼ばれるタイプの元素です。これらはあまり他の物質とくっつかない性質を持っていて、その性質が古い時代を調べるのに役立ってます。

地球と彗星の共通点

各種の天体のうち、地球と希ガス組成比が近いのは彗星だそうです。彗星を調べると言って真っ先に頭に浮かぶのはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星 (Comet 67P)に送り込まれたESAの探査機ロゼッタでしょう。

67P彗星探査機ロゼッタとチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星

原始地球の謎を解く鍵は、彗星に隠されているのかも知れません。

一連のプロジェクトは子機との通信不良など残念な面もありましたが、同時に興味深い成果も多数得られているようです。今後の分析が楽しみですね。(・∀・)

古大気のなりたち まとめ

  • 地球形成時に初期の大気がつくられた
  • ジャイアントインパクトで初期大気が全部吹き飛んで一度リセット
  • 40億年くらい前までに現在の大気の原形が形成されて今に至る
  • 彗星が稀少な揮発性元素をもたらした可能性について検証中

冥王代に大気が出来たと言っても、もちろん組成比は40億年の間に変わっています。酸素などはストロマトライトの登場を待たなければなりません。でも、どの時代の素材に由来するかと言われれば、今の大気は非常に古い年代に出来たものなんだとか。

縞状鉄鋼床
始生代の環境変化を記録している縞状鉄鋼

聴講するまで横地博士のことは存じ上げなかったのですが、普段はシカゴ大で研究されているとのこと。博士課程から海外生活なので、日本語による講演自体が初めての体験ということでした。

でもキュートでパワフルで講義もすごく分かりやすかったので、聞けて本当に良かったです。 (*´艸`*)

以前聴講した別の講演で「はやぶさ2」のサンプル分析チームのリーダーでもある先生の話を聞いたんですけど、その話とまんま被ってて感心しました。ほんと色々と地続きですよね。

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北大の橘先生の話を中心に拾って読んでみて下さい。

どちらも日本地球科学会が絡んでるイベントなので興味ある人はサイトをチェックしてみたらいいんじゃないかなぁ…と思ったんですけど、市民向け情報はトップページからだと全然判りませんね…。

http://www.geochem.jp/conf/201x(年)/public.html

…っていう形式のURLで毎年1回行われてるようなので興味ある人はチェックしてみて下さい。(;・`д・´)

プログラム – GC2016青少年のための地球化学フォーラム