海綿とバイオミメティクス(生物模倣)の古くて新しい驚きの話

海綿といえば高級スポンジや理科の「バラバラにしても死なない実験」でお馴染みですね。でもカイメンの生態は意外と知られてないのでは。

海綿とバイオミメティクス(生物模倣)の古くて新しい驚きの話

カイメンを専門とするJAMSTEC(海洋研究開発機構)の生態学者、椿玲未(つばきれみ)さんによるサイエンストークを聞いて来ましたれぽ。

テーマはカイメンとバイオミメティクス(生物模倣)です。

カイメンでバイオミメティクス!? へぇぇぇぇ、今そんな面白いことになってるんだねぇ!(・∀・)

…って心の底から感心した私は、元理学徒として相当アホだ思いました。でへ。

海綿とは

カイメンは、海綿動物門に属する動物の総称です。暖かい海を中心に広く棲息してます。

英語だとsponge。ボディショップなんかで売られてるアレもカイメンの一種です。一般に売られてるウレタンスポンジはカイメンを模倣したものですね。

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バイオミメティクス(生物模倣)とは

一方のバイオミメティクス (biomimetics) は「生物模倣」などと訳される工業的な手法です。生物の優れた性質を素材や製造プロセスに生かそうというアプローチのこと。

bio- + mimic + -etic(s) で伝わるかしらん。

ドラゴンクエストメタリックモンスターズギャラリー ミミック

「擬態」とも言いますやね。

バイオミメティクスの実例としては、ひっつき虫に着想を得た面ファスナー(マジックテープ)、蓮の葉に着想を得た撥水素材、オジギソウの葉が折りたたまれる原理を使った高分子アクチュエーターなどが知られています。

あっ…。カイメンってバイオミメティクスの大先輩じゃないですかー!

やべ。(;・`д・´)←ここでやっと気付く元海洋生物系学徒

スポンジの模倣と言えばスポンジボブ

スポンジというとニコロデオンのアニメ スポンジボブを連想する人もいるのでは。

スポンジボブ

ギャグの解説もアレですが、ウレタンスポンジみたいな見た目ながら海底に住んでるので、この人も海綿ですね。

スポンジボブは再帰的なメタギャグがとても多くて、彼が住んでるパイナップルの家もホヤ(sea pineapple)からの連想になってます。

そういう意味では「ボブ」も「バッサリ切った」ほうのボブと多分掛けてて、パイナップル自体も pine + apple だし、スポンジボブの言葉選びはかなり徹底してると思う。

海綿の水路な生活

そんな感じの海綿ですが、そのフカフカの体でプランクトンなどを濾し取って暮らしています。体中には水路が張り巡らされていて、いくつかの出水孔に整流されて大きな流れとして出て行くのだとか。

動画は、ある大型カイメンの水路の動きを示したものです。海綿の周囲に色水をまくと、それを吸い取って排気ダクトのように排水する様子がわかります。

なにこれ、めっちゃ面白い。こんなにはっきりとした水流を作るなら、赤潮被害に悩む海域で曝気装置に使えるんじゃないですかね。(⊙Д⊙)

いま内湾向けに二重三重で美味そうな話を思いついたんですけど、ちょっとそこの道行く漁業組合の皆さん、私のアイディア30万くらいで買いませ(以下略)

…いやマジで。

カイメンの水路のはたらきと水流のスイッチ構造

とにかく、このカイメンの水路がですね。今現在 水が出てる穴を塞ぐと、それまで水を流してなかった別の穴から排水を始めたりするそうです。

カイメンの水路だけを樹脂置換したもの

複数ある穴の一つを塞いだら別の穴から出てくる。当然と言えば当然かも知れないんですけど、細胞が寄り集まってるだけで神経もないのに全体の統率が取れてるの何気に興味深い。

実はこの性質が災害時のライフライン復旧に役立つのでは?…という線でも研究を進めておられるそうです。

ここでもバイオミメティクスに繋がっていくわけですね。

水路の樹状構造と組み合わせ爆発

海綿の水路は、人間で言えば肺に良く似た複雑な形状に分岐しています。ノードを簡略化した図を見せて頂いたんですが、フラクタル図形の一つであるピタゴラスツリーそっくりでした。

ピタゴラスツリー
ピタゴラスツリー(無着色でもPythagoras Treeと呼びます)【CC-zero】

椿さんらのチームはこの分岐をプロットするシステムも作ったそうです。しかしなにぶん解析が複雑で大変なんだとか。確かに、見るからに組み合わせ爆発を起こしそうな形状です。

電車の乗り換え問題なんかは部分解を出すことで圧縮が効くんだけど、生態分野だと総当たりでチェックしないといけないのかも知れません。

この辺は生物の人と工学の人でかなり閾値の設定が変わって来るんだろうなと思いました。(質問するの忘れた)

組み合わせ爆発ってことで定番のフカシギおねえさんを貼っておきます。

このムービーはすっかりアホネタ扱いされてるけど、キモは最後の圧縮です。未来館の企画展でもその部分を丁寧に展示していました。(もっとも賑わってたのは入り口だけで、肝心の奥の方ガラガラだったんだけど。)

要するに、乗り換え案内が出てきたのも停電が劇的に減ったのも、経路検索が効率化したおかげなのであります。

海綿 × 流体力学

ついでに思い出した流体力学の「空気コンピュータ」の話も書いておきます。

左右均等のY字管に下から流れを送り込むとして、ちょっとだけフィードバック管を突っ込むとどうなるでしょう? 流れは枝分かれせず整流&制御が可能になります。するとフリップフロップ回路になるので演算が可能になるという。

これ海綿で応用できませんかね?最後の出水管に小規模発電機繋いだら面白そうだよね。

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海綿のひみつ聞いてきました

そんなわけで海綿のひみつを聞いて来ました。

「海綿なんて『高級スポンジ』と『スポンジボブ』と『バラバラにして放っておくと元に戻る』くらいの知識しかないなぁ」と思ってましたが、想像以上に多様な生態で面白かったです。

他にも水路を全く持たない肉食性のカイメンや、海底洞窟の生物は深海生物と似た進化をたどる話、鞭毛は回転運動をせず(!)1軸で波打つことなど、興味深い話をいろいろ話を伺いました。

有名な「バラバラにしておくと元に戻る」実験も、まとまったりまとまらなかったりする条件が種ごとに微妙に異なるようです(そしてその種の定義さえも曖昧みたい)。

でも全部は全然書ききれないし、モロモロあって15分くらい遅刻したんで最初の方もちゃんと聞いてません。興味わいた方は椿さんの海綿インタビューが掲載されたJAMSTECの情報誌を是非どーぞ。

スライドで使われた図表も多数載ってます。
【PDF】海と地球の情報誌 Blue Earth 136号 – JAMSTEC

あとサイエンスカフェ「カガクの粒」さんの当日レポートはこちら。
カガクの粒: 【報告】Sweet Science フツーのカイメンの水路な生活

いやー。私が学生の頃は「大学以降の生物学は ほとんど化学みたいな内容で、化学は物理で、物理は数学で、数学は哲学」って言われたもんですけど、最近は生物と数学が近くなって来て両方好きな自分としては最先端のこぼれ話がほんと楽しい。

生物 x 数理の分野は手法のすりあわせがやっぱり大変みたいですけど、良くわかんないなりにワクワクしながら眺めています。椿先生、スタッフの皆さんどうもありがとうございましたっ。(´ω`*)

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タイトル堅苦しいけど、生物に潜むシンプルな仕組みめっちゃ楽しいやで。