脳科学ってなんだろう?見た目が大事な脳神経細胞の話

実は「脳科学」なんて存在しない!? 知ってるようで知らない神経科学のあれこれを専門家に伺ってきました!

脳科学ってなんだろう?見た目が大事な脳神経細胞の話

何となく解ったようでいて、どうもとらえどころのない「脳の科学」。ものを考えたり感じたりすることってどんな風に研究してるんだろう。

…ということで、脳神経細胞を研究なさっている田尾賢太郎(@taoizm)氏(理研BSI研究員)による神経科学入門を聞いてきましたれぽ。

脳科学って何をする学問?

テレビなどでお馴染みの『脳科学』という言葉は俗称で、学術用語としては『神経科学』と呼ぶべきジャンルとのこと。

まぁ、確かに脳だけ分ける理由もないですよね。言葉の端々に、「これだけは覚えて帰ってくれ」的なオーラを感じましたでござる。(;・`д・´)

神経細胞は見た目が大事!

まず最初に見せて頂いたのは、神経細胞の模式図です。樹状突起があって軸索がびよよよんと伸びる、教科書などでお馴染みのアレ。

神経細胞
【第一学習社 総合生物図解 改訂14版P142 より引用】

神経細胞は「樹状突起から受け取った信号を軸索の向こうに伝達させる性質」を持つことから、細胞のスケッチ見るだけで信号の流れが判るのだそうです。

海馬といった複雑な形状や機能を持つ神経系であっても、丁寧に神経の分岐を追うことでどのように信号が伝達しているか解るという話が目ウロコでした。

齧歯類海馬のスケッチ
海馬のスケッチ(PD)。図中の矢印は予想信号向き(一部誤りあり)

神経解剖学の父・カハール

そうした神経科学の礎を築いたのがスペインの神経解剖学者サンティアゴ・ラモン・イ・カハール(1852-1934)。生涯で3万枚ものスケッチを残したとのことです。上の海馬のスケッチもカハールによるもの。

100年も前にそんなことまで判ってたんですねぇ…スゴイ。

でも…その偉大な父の胸像を、このデザインにした理由はどうしてなんだぜ…?

サンティアゴ・ラモン・イ・カハール
スペインのブルゴスに建つカハールの胸像(CC BY-SA 4.0) via Santiago Ramón y Cajal – Wikipedia by HCPUNXKID

神経細胞は女子

ちなみに神経細胞の図を示しながら「このコがね」って楽しそうに仰るんで何かと思ったら、「ニューロン」は女性名詞なんですね。学会でも神経細胞を指して「she / her」と呼ぶ研究者さんは少なくないとか。

細胞分裂で元の細胞と分裂後の細胞を「母細胞・娘細胞」って呼ぶのも「娘もやがて母になるから」だと言います。息子だとメタファー的に成立しなくなっちゃう。

それで他の細胞の品詞分類はどうかと思ったら「痔核」も女性名詞らしいです。不意に数人の顔が脳裏をよぎって「へぇ…」って思いましたよね。

樹状突起と多様な樹形

さて。個人的に一番面白かったのが樹状突起の形状あれこれでした。多様な形がある事は何となく知ってたけど、それぞれの細胞に特有の形状があるようです。

樹状突起と樹形色々
ツバメの視蓋スケッチと様々な樹形【左下の樹木Araucariaのみ(CC BY-SA3.0) / その他(PD) 】

…ということは、入ってくる信号の質や量に応じて樹状突起の分岐も特徴的に方向付けられる可能性も考えられますよね。…と思ったら実際に細胞の形状から機能を分類する数理的アプローチもあるのだそうです。

無類のフラクタル好きとしては思わず前のめりになってしまいました。

もじゃもじゃノードをフラクタル的に圧縮することで「伝わる信号の量」も推察できるかも知れない件、めちゃくちゃカッコイイでしょ。

【楽天】茂木健一郎の脳がときめく言葉の魔法 [ 茂木健一郎 ]

ちなみに金属たわしのフラクタル次元は2.7くらいです。あくまで たわしのフラクタル次元の話ですが。

圧倒的な情報量の顕微鏡写真群

また、最新の蛍光顕微鏡で撮られた種々の写真は映像としても技術的にも興味深く印象に残りました。権利の都合で写真が撮れず非常に残念。

中でも、利用する波長以上の解像度を出すシステムが面白かったです。この手の波長以上の画質を得る手法は昔から研究されてるんですけど、古典的なアルゴリズムもどんどんバージョンアップされてるんですね。

おわりに

冒頭で神経細胞の構造図がバーンと出てきたとき、学生時代に覚えた教科書の図説が脳裏をよぎって「お、神経細胞。知ってる知ってる。」って思いました。でも多様性を伺った最後にもう一度同じ絵が出てきたときは随分印象が変わっていて自分でもびっくり。形状にはそれぞれ理由があるんですね。すごく勉強になりました!

あと、カガクの粒さんはごはんも魅力。ほんと美味しいよ。(´∀`*)

【報告】Sweet Science 神経細胞の森を歩く – カガクの粒

【関連記事】

昆虫大学2014横浜 購買部臨時職員より活動報告日誌

カガクの粒さん次回講師は、昆大夜学でトップを切ったあの方です。

ビスマスの結晶作りは超大変!魅惑の虹色キューブが出来るまで

前々回の講師は結晶がご専門の山猫だぶ先生でした。