学歴が「中卒」で困ることって実質そんなにないと思う

本来、学校に行くのは義務教育までで良いはずです。実際、中学までに学ぶ内容で日常生活に必要なことの大枠は判るんです。それくらい義務教育って良く出来てる。

学歴が「中卒」で困ることって実質そんなにないと思う

中卒って世間的にあまりイメージ良くないかも知れないけど、個人的には「中卒の地位はもっと高くて良いのになぁ」って思ってます。

現状では高校に進学しなかった人の多くが勉強嫌い(か、勉強する環境になかった)から低く見られてるだけで、中学の学習範囲そのものはよく考えられてると思うんです。

仮に「中学までの履修範囲は全教科バッチリ」って人がいたら、世間的にはかなり博識な部類ですよ。控えめに言っても上位3割には入る。

じゃぁ、「夢に向かって必要な勉強はするけど学校に行くのは中学まで」っていう前向きな中卒が増えてもいいよね、という思考実験です。

一般社会で「説明抜きに使える知識は小4まで」

雑感として、相手の知識レベルが判らない状態で「前置きなく使っていい知識」って小学校4年で習った範囲までという認識です。それより複雑な話は段階的に話さないとうまく伝わらない。

これ言うと「え~?」って言われるんですけど、あまり接点がない人と話すときに意識して言葉を選ぶようにしたらずいぶん会話が弾むようになりました。

小4を境に履修内容が抽象化する

実際に文科省の指導要綱にあたってみると、小4~小5あたりを境に学習内容の質が変わってくるように思います。

  • 低学年 … 読み書きと計算の基礎
  • 中学年 … 観察や鑑賞体験の記録
  • 高学年 … 比較して理由を考察する

比較をするために、学習塾のサイトいくつかを回って小学校4年生の具体的な単元を拾ってみます。

  • 算数 … 多桁の掛算と割算・小数や分数の導入
  • 理科 … 星の観察・季節と温度・電気の働き
  • 社会 … 地域の産業・公共事業のしくみ

同様に5年生。

  • 算数 … 小数と分数の計算・単位あたりの量
  • 理科 … テコの仕組み・物体の溶け方・動植物の誕生
  • 社会 … 日本と世界の国土・近代の工業

※多少の差異があるかも知れない点はご容赦下さい。

4年生の学習対象が「比較的身近な暮らし」を扱ってるのに対して、5年生では地味に抽象的になってます。産まれる前の出来事、行ったこともない場所、肉眼じゃ見えない世界、「たかしくんがリンゴを3個買いました」では済まない計算。

科目間の得手不得手がじわじわ広がり始めるのもこの辺りからじゃないでしょうか。その小学校高学年で垣間見た抽象概念の基礎を、中学3年間かけて各論に掘り下げていく感じですよね。

昔の学制も尋常小学校は4年まで

ここでごく最初期の学制を考えたとき、尋常小学校の修業年限も4年でした。それ以降が高等小学校の扱いとなります。(なお尋常小学校は後に6年制に改組してます。)

教科書そのものについては確認することが出来なかったのですが、科目策定用の算術細目を見つけたので抜粋してみましょう(国会図書館すげーな)。

尋常小学校・高等小学校・指導要綱細則
近代デジタルライブラリー – 国定小学教科書各科教授細目(PP72-75)より
  • 尋常4年 … 一万以内の数の四則練習及び小数の加減
  • 高等1年 … 加減乗除法、度量術、貨幣及び時の計算、簡易なる小数

明治37年(1904年)の指導内容ですけど、他教科含めて現代の要項と大差ない印象を受けました。子供の発達認知段階は時代を経てもそう簡単には変わらないのでしょう。

小4程度の学習内容を境にして、理解度に大きなばらつきが生まれてることは十分考えられます。

中学校履修レベルは結構ハイスペック

一方、中学で学ぶことを考えます。

  • 国語 … 読み書き・漢字の成因・品詞と修飾関係・古典の基礎・敬語
  • 数学 … 符号・指数・二次までの式・座標・確率・図形の性質・平方根の四則・変域
  • 理科 … 熱力学・生物学・岩石学・電磁気学・無機化学・気象学・天文学(の基礎)
  • 社会 … 日本史・世界史・地理・政経・時事社会
  • 英語 … アルファベット・基礎構文・各種用法

こちらも列記するときりがないのですが、改めて考えると義務教育で学ぶ範囲ってすごく広いです。入門レベルとは言え、一通り身につけてれば大体のことは困らないくらい良くまとまってる。

一般に「高校で習う単元がちゃんと理解出来てれば世の中やっていける」みたいに言われますけど、日常生活に直結する部分なら中学レベルの理解でも最低限どうにかなるんじゃないでしょうか。

もちろん高校大学レベルの理解がある方が良いに決まってます。ただ、勉強嫌いの子が何となく高校に進学して微積や亀の子をちんぷんかんぷんのまま卒業するより、職業訓練校などで義務教育範囲をみっちり復習した方が全体の底上げにはよっぽど効くと思うのです。

高校以上の履修範囲を学ぶ理由

じゃぁ中学の履修範囲では説明できない話とはどんなレベルを言うのでしょう?義務教育と高等教育の違いって?高校に行く理由って一体何だろう?

一言で言うのは難しいのですが、ものの構造に踏み込むような話と言えそうです。一問一答の知識では答えられないような説明を要する問題。

「空はどうして青いの?」とか
「電子レンジって何で暖められるの?」とか
「この薬はどういう仕組みで効いてるの?」

…のように、仕組みが判らなくても「そういうことになっている」でどうにかなっちゃうような話。

ただ、問題は変な人が近寄ってきたときなんですよね。

「見たこともない雲が出たから天変地異が起こるよ。」とか、
「レンチンした料理ばっか食べてると癌になるよ。」とか、
「このサプリちょっと高いけど良く効くから。」

…みたいな人が近づいてきたときに高校まで行っておくと多少警戒出来るようになります。大卒だと全体の守備が少々上がって専門分野での応戦が可能に。

一応、理論的にはそういうことになっております。

学力は学歴相当であって欲しい

勉強は登山と一緒

その意味で、義務教育を「修了」した人の知力は「3000mくらいの山を登れる体力」に相当すると思ってます。ルートによってはアタックが難しいけど、ハイキングの延長でギリギリ頑張れる高さ。

高校以降で学ぶ山はもっと高くて、酸素がぐっと薄くなる感じ。大学だとロッククライミングも出来なきゃいけないかも知れません。でも途中までケーブルカーが通ってて、楽に登頂気分が味わえる山がある。

もし中学・高校・大学の各段階で、習熟度検定をもっと徹底的にやったとしたら?

おそらくほとんどの人が留年・中退扱いになるでしょう。私だって怪しいものです。相当熱心に勉強した人でも運転免許証の「要 眼鏡」みたいな扱いになるかも知れません。

その時がきたら非常に憂鬱ですが、その反面いまよりずっと実質学歴が下がることになりますから、中卒は立派な学力証明になるはずです。むしろ15歳で中卒相当だったら相当優秀ってことになりそうです。

失敗が許されない社会制度

そんなわけで学歴相当の学力がないまま卒業出来てしまうの本当に良くないと思ってるんですが、実際には学力だけを理由に強制退学させられることはまずありません。

横並びになった結果、社会に出て苦労する人が増えるし、優秀な人も挑戦するリスクを負えなくなってしまう。例えば、留学に伴う留年をデメリットと感じて留学自体をやめてしまうような行動様式です。

自分自身を振り返ると、子供の頃から学校以外のコミュニティが結構あって「学校辞めて(あるいはそっちのけで)働かないか」って誘いも何度かありました。

ただ勉強自体は好きだったので、月並みに大学行ってラボ畜を経て卒業しました。

…とは言え「あのときやめてたら今頃どうなってたかなぁ」ってたまに思い返すんです。グラデーションの人生が認められる社会なら、一度は働いた経験を生かして学び直す選択だって当たり前になるはずなので。

おわりに

冒頭の写真は高校時代の生物ノートです。この話を書くに至った流れとして「医療デマに騙されないためには高校生物でやったことが役立つ」とかいう文脈だったので。

夜遊びばっかりしてた割には真面目に学校行ってましたけど、高校の学習内容って生産人口の9割が知ってるはずの内容としてはかなり難しいと思ってます。自分も人に誇れるほど理解してるかと言えば相当怪しい部類に入りますし。

何度も言ってるけど、中学履修範囲を公理として使えるコミュニティは想像以上に狭いよ。その場にいる過半数が修士以上じゃないと成立しないと思う。義務教育なめたらアカン。
2015年6月9日 44 RT / 37 Fav

学力でも何でもそうですけど、実力を突きつけられる代わりに何度でもやり直すチャンスがあれば良いのになって思います。

【2015-06-16追記】旧題:学歴が「中卒」でも構わないよね?高校って何で行くの?