「文系だけど、科学を好きになってもいいですか?」

「科学モチーフの創作に科学を変える力はあるのか?」と悩む作家さんの観察記録デス

「文系だけど、科学を好きになってもいいですか?」

「こちら、科学系ブロガーのおちさんです」

私を紹介するときに、ブロガーと表現する人はまずいない。私自身がそう名乗ってないのだから当然といえば当然だろう。

その奇特な例外の筆頭が、小説家の朱野帰子先生だ。

小説家 朱野帰子

文芸作家である彼女は、理系の生態に強い関心があるらしい。

作中で科学者がキーマンとなる物語も複数書いている。実在する研究所、JAMSTECを舞台にした小説『海に降る』などはその最たるものだ。

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「なんかねぇ、科学のことをよくわかってない人間が科学モチーフの小説を書いてて良いのかなぁって思っちゃうんですよ」

「ん~、別に科学トリックが重要なミステリーとかじゃないんだし、全然アリじゃないですか?そもそも職業人としてぶつかり合う描写に文系も理系もないでしょう?」

「まぁ、そうなんですが…」

「それに『海に降る』がTVドラマ化されたときは、有村架純ちゃんが主役だってJAMSTECの先生方も大騒ぎしてたじゃないですか」

「架純ちゃん…うん、あれはねぇ。本当にすごかったですよ…」

「そんな…すごかったって。やだなぁ、まるで他人事みたいに」

科学者 高井研

『海に降る』の科学監修は、JAMSTECの研究者である高井研先生だ。

強烈な個性の持ち主で、国内外を問わずファンが多い。「15分の市民公演に70枚超のスライドを持ってきて、しかも全部喋る」と書けば、独特のキャラクターが伝わるだろうか。

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「あの小説家なぁ、もっとズバズバ好きなこと書いたらええんや」

「朱野先生のことですか?」

「そう。あとオマエもやで?ブロガーなんだから、もっと面白おかしく書きたてんかい!」

「えっ、嫌ですよ!炎上芸人はやりません」

「カ~ッ!しょっぼ!ショボすぎ!だぁ~っから腹黒いとか言われるんじゃ!」

「やだなぁ。配慮があるって言ってくださいよ」

「はぁぁぁぁ、小説家のほうがまだ骨があるわ…」

「素人と一緒にしたらプロに失礼ですってば…」

「どっちが失礼かっつーの!いいんだよ!それぞれ好き勝手書けば!」

「まーた、うまいこと言って。後から文句言うパターンなのでは?」

「そらそうよ。こちとら学者だもの」

「うわ、こっわ!」

「怖くないわ!小説家にもそぉ言うとけ!」

原作と二次創作

2年前に『海に降る』がドラマ化されて以降、朱野先生は決まって同じ主旨の言葉を繰り返した。

「ドラマ化と言っても、私は原作者ですから」「私は小説を書いただけで」「一視聴者として楽しみたいと思います」

それは今まで謙遜の一種だと思っていたのだけど、よく考えてみればドラマの脚本家は別人だ。ストーリーもオリジナル要素が強かったし、作者本人にしてみれば自作の映像化というより二次創作を見ている気分だったのかもしれない。

あれ?…だったら、あれは謙遜でも何でもない。まさに文字通りの意味だ。彼女の主戦場は小説なのだから。

あまりに当たり前すぎて、その事実に気づくまで2年かかった。

だとすれば、実在の研究所を舞台とするフィクションもまた二次創作なのだと言える。…もとより、真実と創作に明確な垣根などないのだし。

もしかして。私が書いてる研究所の見学レポートも、「レポートされる側」から見た正確性でいえば、作り話と大差ないのでは…?

…ということは、つまり。プロフェッショナルであるお二人に失礼してたのは私…ということに、なる…わけ…です…が。

((((;゚Д゚))))

え…なにこれ、こわ。時間差攻撃こわ。小説家こわ。学者こわ。こっわ!

高井研 × 朱野帰子 feat.増子瑞穂

1年くらい前から朱野先生がTwitterでうわごとのように何かやりたいとか言ってたのは気づいてたんですが、いつの間にやら本当に計画が進んでてびっくりしました。

朱野先生が主催のイベントなら書評会かなと思ってたら、高井先生との対談だというんで二度びっくり。しかも進行役が深海イベントに強い(?)キャスター増子さんだし。

でもレジュメ見てたらエンタメと科学の相乗効果を考える内容に読めて、それは素直に面白そうだと思ったのでした。

3人とも強烈なキャラなので何が起こるか全く予測不可能ですが、進行次第では軽妙な深海トークを超えて「特殊お仕事系フィクション」をめぐるエンタメの本質が聞けるかも知れません。

…というか、どうせなら面白いことになってほしいので、早いうちに場外から野次を飛ばしておきます☆

高井研 × 朱野帰子「文系だけど、科学を好きになっていいですか? ?2018年シンカイ編」 | Peatix

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