大雪警報が新基準に!都会特有の雪害事例から関東の大雪に備える

大雪警報の基準が一部改変されました。それを受けて気象庁で行われた、雪氷研究者による公開シンポジウムに行ってきた講義メモです。

大雪警報が新基準に!都会特有の雪害事例から関東の大雪に備える

気象庁で開催されたシンポジウム「関東の大雪に備える」へ行ってきました。

主題は「関東における降雪」と、極めてピンポイントな内容です。何故そんなローカルな話題かというと、つい最近になって関東甲信地方の大雪警報・注意報の基準が見直されたため。

都会や平野部特有の雪害について、従来よりスピーディーで実感に沿ったアナウンスが可能になるということです。

関東甲信地方及び東海地方の大雪警報の基準見直し

平成25、26年の度重なる関東大雪を受け、関東甲信地方および東海地方の大雪警報・注意報の基準見直しがありました。(2016.11)
気象庁|報道発表資料

大雪警報

  • 旧基準:24時間降雪の深さ20~30cm
  • 新基準:12時間降雪の深さ10cm

降雪の単位ボリュームは変わりませんが、基準となる時間が半減してます。関東周辺の平野部で24時間降り続くことは考えにくいので、時短は現実的な改変でしょうね。

大雪注意報

  • 旧基準:24時間降雪の深さ5~10cm
  • 新基準:12時間降雪の深さ5cm

注意報も同様に時短してます。基準期間が半減されれば、公共交通機関の運休情報なども早い段階での発令が期待出来そう。

配布された資料のモデルケースでは、新基準に移行すると発令タイミングが5時間早くなるそうです。「中途半端に始発が動いてしまったことで会社に缶詰」みたいなケースが減ることに期待したい。

「関東の大雪に備える」講義メモ

気象庁

シンポジウム「関東の大雪に備える」の簡単なメモと感想を、備忘録として置いておきます。

全体の議論は2013年の雪害を軸に組み立てられていました。確かにこの年は首都圏で稀に見る大雪を記録しましたが、各方面の専門家としても多くの反省があったようです。

13時から18時までぶっ通しの大ボリューム。一般向けとしながらも専門的な内容が多かったように思います。聴講者も研究者や気象予報士、災害対策関係っぽい方が多く見受けられました。

むしろ全くの趣味で来場した人のほうが少なかったかも。
2016年12月10日シンポジウム「関東の大雪に備える」関連まとめ – Togetterまとめ

関東に特徴的な降雪をもたらす南岸低気圧

トップバッターである気象庁の研究官・荒木健太郎先生の内容は、関東に特徴的な降雪をもたらす南岸低気圧の挙動についての講演でした。

このところ荒木先生がアウトリーチで頻繁に取り上げてるテーマです。2013年豪雪もこの気圧配置によるもの。専門家の間では、予測が非常に難しいことで知られています。

南岸低気圧に魔物が住んでる要因の一つとして「過去の経験則が当てにならない」ことが挙げられるのですが、過去60年近い気象データを洗い出したところ「経験則自体に根拠がなかった」と明らかになったのが前半のハイライト。

詳しい講義内容は直前にご出演された気象番組の話とかなり被るので、詳しくは動画でどうぞ。

後半は中谷宇吉郎先生の「雪は天から送られてきた手紙である」を引き合いに出し、雪の結晶から雲の状態を読み解く話に移ります。大規模調査を目的とする市民参加型の科学 Citizen Science とその実例について時間を割いていたのが印象的でした。

市民を巻き込んでの研究は、荒木先生のように日頃から著書やSNSを通じて専門的な内容を親しみやすい形で伝えている人には爆発力の高い手法という気がします。

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寺川奈津美「関東の雪予想への挑戦」

続く登壇者は気象キャスターの寺川奈津美さん。気象予報士としての2013年の成人の日・大雪を振り返る回顧録です。テレビカメラの前で「関東では積雪はないでしょう」と言い切ってしまった苦い経験と反省を語って下さいました。

予測困難な南岸低気圧をどんな表現でお茶の間に伝えれば届くのか。刻々と変わる気象状況に振り回されながらの苦悩と葛藤が伝わってきます。

不確かな情報を幅があるまま正確に伝える難しさ。よく考えたら天気予報ってサイエンスコミュニケーションそのものなんですね。

華やかなイメージのある「お天気キャスター」の印象ががらりと変わる一コマでした。

気象キャスター寺川奈津美 はれますように~未来はきっと変えられる / 寺川奈津美

山梨での孤立集落問題

ここでテーマが気象から雪氷に移り、降雪事例に関する報告が続きました。2013年豪雪で起きた、山梨の大規模孤立化に関する考察です。

山梨は意外と雪国で、たびたび大雪で交通網が寸断されます。私自身も、以前に山梨の友人宅へ行く予定を立ててたら雪で完全に足止めを喰らって結局たどり着けなかったことがありました。

降る年と降らない年の格差が激しいので、いざ降ると一気に処理能力をオーバーするのでしょう。

また関東の雪は豪雪地帯の雪と比べて雪質が重く、農業用のビニールハウスなどにも深刻な圧壊被害をもたらすとのこと。「雪害」と一口に言っても、関東と北国では雪質が違えば建築物の設計思想も違う。豪雪地帯の知恵がそのまま生きないことも多いと言います。

山梨と東京では都市の規模が違うとはいえ、東京で壊滅的な大雪が発生すると仮定した場合のロールモデルとして高い研究価値があると理解しました。

地域ごとに対処すべき問題は多岐に渡るでしょう。平時から地域性の高い問題をあぶり出していかないと、雪が降ってからでは間に合わないなという印象を受けました。

雪害状況の情報収集と災害対策

最後の情報セクションは、実際に起きた各地の雪害をどのように俯瞰するかという内容でした。目まぐるしく変わる被害状況と限られたインフラを使って、深刻な被害を押さえるにはどう情報収集すべきかという提言です。

生データの処理は情報収集の確度がキモじゃないかと思いましたが、中でも内閣府で災害対策をされてた方の報告が非常に興味深かったです。

予測不明の災害と既存の枠組みの中で対策を回すくだりは、映画シン・ゴジラを彷彿とさせるものでした。

雪というと雨の延長線上の現象と考えてしまいがちですが、別次元の災害なのだという意識を持つ必要がありそうです。

【映画パンフレット】 シン・ゴジラ

まとめ

「関東の雪」というテーマで何が聞けるのかと思いましたが、ふたを開けてみれば多岐に渡る内容で勉強になりました。気象物理、気象予報、雪害対策、交通問題、災害状況の把握、災害救助の実務など様々な専門家が密接な連携をとる必要があるのですね。

今回のように専門性の高いセッションでのクロスジャンルトークは話について行くのが大変なのですが、点と点が繋がって情報が面や立体になるのを感じます。

また、いざ大規模災害が起きたときのことを考えると「異分野の専門家が既に顔見知り」って状況は地味に有意義だったりするのでは。逼迫した状況で「はじめまして」の挨拶とかやってらんないですもんね。

ただ、一つ悔いがあるとしたら気象庁の名物書店「津村書店」を見そびれたことでしょうか。以前から是非行ってみたかったんですが、入館許可証を返却した後にうっかり建物の外に出てしまい、泣く泣く庁舎を後にしました。つらい…。

ともあれ荒木先生と寺川キャスターの取り組みが非常に興味深かったので、話はさらに続きます!(・∀・)/

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寺川奈津美さんと斉田季実治さんのやりとりが素敵すぎたので推していきたい。