生物学者はどうやって新種の生き物を見つけるんでしょう?
また、発見した生き物が新種だとどうして判るの?
そんな疑問をJAMSTEC気鋭の貝博士、Chong Chen先生に聞いてきましたれぽ。
フィールドにいる生物が新種だとわかるまで
話は先月のJAMSTEC(海洋研究開発機構)一般公開に遡ります。
Chenさんがミニトークで喋るネタを募集していたので、新種探しの基本について乗っかってみました。
明日のJAMSTEC一般公開、ちょっとした ゆるトーク・プレゼンをする予定です。”こんな話が聞きたい!”などの希望・要望があればぜひ教えてください。
https://twitter.com/squamiferum/status/733475959144243200
「調査中の新種は一目見て新種と判るものなのか、専門家はどの程度の差違なら新種を疑うのか」気になります。(まにまに買いました!)
それいただきです! マニマニご購入ありがとうございます!
https://twitter.com/squamiferum/status/733500821757796353
やったぜ採用。(๑•̀ㅂ•́)و
ちなみにマニマニというのは博物っぽい感じの同人誌(?)で、Chenさんの溢れる貝愛を堪能できます。ネットショップのBASEにて販売中。…って、回し者かよ。
マニマニ【Vol.2】~貝~ | マニマニ.オンライン
研究対象への情熱がすごい
そもそも今回のミニトークはChenさんの貝マニアっぷりを堪能する会でした。とにかくこの方、ご専門である貝への情熱がすごいのです。
少年期から買い集めたコレクションを見せて貰いましたが、かなりの額が貝に溶けてる香りがぷんぷんします。「拾ったのも沢山ありますから」とか言ってたけど嘘だ。絶対ヤバい。
例えばChenさんは絵が苦手なので、スケーリーフットの論文に添付した生体スケッチは他の先生に描いて貰ったそうです。実際そういう人の話はちょいちょい聞きます。でも、人に頼んでからがヤバい。
おち所長(@02320_ochi)のレポ通り、私には解剖図が描けませんでした。でもその代わりに、現代技術でのリベンジに臨みました。スケーリーの内部構造を完全3Dモデル化し、解剖写真とともに論文化したのです。
https://twitter.com/02320_ochi/status/643761555444600832
すごい、これは蛍光か何かでスキャンしたんですか?
いえ、これは標本を丸ごと0.0015mmの厚さの薄片にスライスして、染色して、写真を撮ってコンピューターに取り込んだデータから作ったものです。^_^
https://twitter.com/squamiferum/status/643815237011922944
…え。 0.0015mmってなに。
「絵心がない」からの、まさかの飛び道具的アプローチ。なんとこの論文、3Dモデルが埋め込んであってグリグリ動きます。左側がレンダーによる2Dの計算結果、右がグリグリ中の3Dモデルです。
何で右の画質が悪いかというと、カメラでパソコンの画面を撮ったからです。描画データが実画面用の2Dメモリと3D領域にまたがってるからスクリーンショットがとれないんですよ。
他の人の作業を待ってる間に別の研究するって話は良く聞きますけど、独自の理解を深めすぎでしょ!(⊙Д⊙)
硫化鉄の鎧をまとうスケーリーフット黒・白・龍スケ触ったよ!
(Chenさんのスライドはテンポ良すぎて全然撮れないので以前のやりとりから再構成しました)
新種の目星を付ける流れ
前章は「新種を見つけてから記載されるまで」のあれこれですが、実際にフィールドで新種を探すときの状況はかなり反射神経が求められるみたいです。
研究のためにジャングルの奥地に割って入る昆虫学者さんなども大変な苦労だと思うんですが、フィールドが海の人達も相当でしょう。
特に深海の場合は「さっきの場所にもう一度戻ってみようか」が難しいので、たぶん一期一会というか少年漫画的な奇跡に胸熱です。
遠目にニョロニョロ映ってる画面を見ながら全力で脳内データベースを照会し、新種の可能性を判断するとか。「お?」って思ってから数分あるいは数秒で捕獲するかどうか決めないと機械の準備が間に合わないみたいです。
会場でも新種探しの決め手になった動画を見せられて「ここに二つの生き物がいるんですけど判りますか?」って言われましたけど、そもそも私には1種類の群生にしか見えませんでした。
そういう状況で、紛れ込んでる少数個体をめざとく見つけられるのも脳内データベースがあってこそでしょう。「こういう環境ならあれがいるかも」という基礎知識を叩き込んだ末に見える目の良さってあると思います。
その知識の底上げのためにオーバースペックとも思える膨大なデータを取ってるとしたら研究成果は全て必然だし、このまま人間コンピュータ道をガッツリ突き進んで頂きたい。
Chenさんの場合、ある生き物に注目したら「この生き物の仲間は全部で○種あると知られていて、このフィールドだったらアレとコレがいるはずで、それらの特徴とは違うので新種かも知れない」という流れで新種の目星を付けてるようです。
その後は船なり陸に揚げて、既知の種と遺伝的に近いかどうかを調べたり、タイプ標本と照らし合わせる作業をするとのこと。
おわりに
「生物の新種同定法」と大きな括りで書きましたが、研究者やジャンルによっても微妙に手法が違うと思います。そのへんはざっくりご了承下さい。
例えばテヅルモヅル研究者である岡西先生は、新種記載の拠り所となる「タイプ標本」を求めて世界中の博物館に足を運んでいると仰ってました。
深海生物テヅルモヅルの謎を追え! 系統分類から進化を探る (フィールドの生物学) 岡西 政典 |
もし「俺の新種同定テクを聞いてくれ!」または「あの生物が新種と決まる物語に全米が泣いた!」などございましたら是非。
おまけ
それにしても、数ヶ月ぶりにChenさんのお話を伺って最初に驚いたのが日本語の発音でした。
もともとChenさんは4カ国語話者なんですけど、昨秋の時点では中国語-英語話者特有の訛りが強かったんです。(以前に私がいた業界は中国人技術者が多かったので中英日トリリンガル特有のイントネーションには馴染みがあります)
それが半年足らずで かなり綺麗な日本語発音になってたので、「フィードバック回路が出来あがってる人は違うわ」って感心しきりでございました。
Chenさんのお話を伺うにつれ貝の面白さが判ってきたので、よりディープな話について行けるように勉強していきたい所存です。(・∀・)
The Shell 綺麗で希少な貝類コレクション303 |
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