25日に行ってきたクマムシ vs 極限環境微生物 トークバトルにてJAMSTECの高井研先生が披露して下さったスケーリーフットの標本はなんと3体!水族館などでの展示もなければ、標本を見ることも難しい生き物なので会場は大興奮です。その際の話を分離して一本にまとめました。
生物好きにはお馴染みのスケーリーフット、3体の標本と言っても一カ所から取ってきた3体じゃございません。ご存じ『黒スケーリーフット』とややレア度の高い『白スケーリーフット』、あともう1体はイベント3日前に水揚げされたというドラスケですね。
まだ生態が解明されてなくて長期飼育もままならず
『生きてるスケさんを見た者は向こう80年以内にほぼ100%死ぬ』
…とまで言われる生物なだけに、(標本とはいえ)直接触れる機会に恵まれるなんて超ラッキー!!しかもJAMSTECの必殺飼育人・和辻さんにいろいろ教えて頂きました!
スケーリーフットとは…
スケーリーフットは深海の熱水噴出孔付近に暮らしている、巻き貝の一種です。
和名をウロコフネタマガイ(学名:Chrysomallon squamiferum )と言う通り、「スケーリー」は「恐怖の」じゃなくて「ウロコ」の方。硫化鉄の鱗を持ち、生き物なのに磁石にくっつくという驚異的な特徴があります。今世紀に入ってほどなく発見されました。
見せて頂いたのは「かいれいフィールド」と名付けられた調査域で見つかった”黒スケ”、「ソリティアフィールド」の”白スケ”、南西インド洋の「ドラゴンフィールド」にいた通称”ドラスケ”の3体です。
見た目が違う3種類はDNA的に見ると同一種
分類学的には一属一種らしく、こんなに見た目が違うのに三種類とも遺伝的には同一種なのだそうです。
そして、スケーリーフットがいる熱水域の話がこれまた熱い。JAMSTECの研究者ブログを読むとその熱意がひしひしと伝わって来るでしょう。
インド洋中央海嶺に新たに熱水サイト2つを発見しました。そして白いスケーリーフットが発見されました
皆さんご存じの通り、地球表面の約7割が海ですから、地球の表面積から海洋底の面積はおよそ360,000,000,000,000平方メートルと見積もられます。広いですね。これに対して1つの熱水域はだいたい100m×100mですから、たとえばその辺の県営陸上競技場ぐらいなものです。比率で言うと、300億ピースのパズルの中から1ピースだけ違うのが混じっているような具合です。なかなか想像も難しいかと思いますが、要するに「やみくもに探しても絶対に見つからない」ものなのです。
JAMSTECプレカンラボ:2010/12/13 ニュース
ピンポイントに存在する熱水を戦略的に探し当てた、と言う点で大変クレバーな話です。
【熱水噴出孔の一種、ブラックスモーカーが生えたクマムシさん(画像はイメージです)】
スケーリーフットの生育条件は判らないことだらけ
お話を伺った和辻さんは、現在開催中の国立科学博物館・深海展にてスケーリーフットを始めとする深海環境展示のセッティングをされた方です。…っていうか、どこかで聞いたことのあるお名前だと思ったら おちさん前に関連記事とか読んでました。
QUELLEレポート:「スケーリーフットを生きて持って帰る」
スケーリーフットを生きて陸に揚げるのがどれだけ大変かが判るレポートです。赤さびの出たスケ殻が病斑みたいで実にもの哀しいですね。このときはJAMSTEC関連のアカウントから毎日のようにスケーリーフット死亡報告が流れてきて辛いものがありました。
つまり必殺飼育人とは、深海のプロ集団であるJAMSTECきっての生き物係にもかかわらずターゲットを必ず死に至らしm…(以下略
【memo】
なお、プレカンラボの正式名称は「プレカンブリアンエコシステムラボラトリー」ですが、もしかしてクマムシ博士と高井先生の共通項ってカンブリア紀ってことなんですか? ちょ…そういう事は早く言って下さいよ!
えー、まぁ、そんなわけでウロコフネタマガイことスケーリーフットの話です。
スケーリーフットの標本観察
熱水噴出孔に棲んでる生き物と言えば、前に博物館でシロウリガイの標本を見せて貰ったことがありました。その表面からは、ほんのり温泉のような硫黄臭がしたのを思い出し、手に取ったスケーリーフットの標本をおもむろに嗅いでみたのです。
スケーリーフットと硫黄臭
でも、いわゆる貝っぽい臭いがするだけでそれほど硫黄臭くはありませんでした。
そっかー、臭くないんだ~、と思ってたんですけど、やっぱり採取直後はすごく硫黄臭いらしいです。標本処理する過程で臭いが抜けて来ちゃうそうです。あと、どんな処理をするかによってもかなり変わるのだとか。
個体差もあるでしょうけど結構小さいです。一緒に写ってるお菓子屋さんの刻印が2cm角くらい。…というか、そもそも極めて貴重な標本を何で饅頭の箱に入れて持ってきたかについて博士達に問い詰めたい気持ちでいっぱいやで。
鱗はピラピラしてるけどしっかりついてて、触っただけで取れるような感じではありませんでした。
標本のプラスティネーション処理
【追記 : 2013-10-06】
標本の処理方法を改めて伺いました。これプラスティネーションされてるんだそうです。
プラスティネーションとは、組織内の水分などを樹脂と置換させた標本処理のこと。保存性が高く、生体の構造を良く保ちます。『人体の不思議展』で有名なスライス標本もこの方法で処理されてます。
持った感じは「鉄の鱗」という印象に反してかなり軽いです。比重の印象は桐材くらい。表面は透明マニキュアを塗ったような質感でした。
【 追記 : 2015-09-14 】
別のイベントで、スケーリーフットの学名を正式に記載した貝類学者Chong Chen氏にお話を伺いました。
前回、標本をプラスティネーションすると良く構造を保つと書きましたが、もし普通に乾燥させると、収縮率の違いで自ら崩壊してしまうんだそうです。プラスティネーションは「すると良い」ではなくて「しなければならない」処理のようですね。
放っておくと勝手に壊れるとか、まーた厨二臭がハンパないで…。
標本見るなら深海展へ
興味ある方は来週末まで上野でやってる深海展にも展示されてますから、是非ご覧になってみては如何でしょう?
…ん、待てよ?JAMSTECの皆さんは あの日 この深海展の告知をするべきでしたよね…? 絶対するべきだったよね?あぁっ、もうっ!(^^;
そういうわけで、クマムシの会に乗じて大変貴重なスケーリーフット標本を見せて頂いたよ…というご報告でしたっ!(^^;A
【関連記事】
スケーリーフットの名前が決まるまで15年もかかった衝撃の理由
スケーリーフット研究者のChenさんに聞いた驚きの研究史をいろいろ。このとき本稿の学名スペルが間違ってることを知ったので該当箇所を修正してます。
クマムシ研究者・堀川大樹先生とJAMSTEC・高井研先生によるトークイベント本編です。
【科博『深海』展はダイオウイカとグソクムシ以外が穴場】
上野の国立科学博物館にて開催中の深海展れぽ。
「江ノ島水族館や横須賀のJAMSTEC一般公開に何度も行ってるのにわざわざ上野まで行くの?」って言われた~。
JAMSTEC一般公開に十年通った私のオススメ&2014レビュー
そもそもジャムステックとは何ぞや?という方はこちらをどうぞ。
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